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疑問視されていた「安静時fMRI」の有効性

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疑問視されていた「安静時fMRI」の有効性が証明されるまで
 
リラックスした状態で脳の血液の流れを測定し、可視化して脳活動を調べる「安静時fMRI」。
 
血液の流れは必ずしもニューロンの動きを表すわけではないとして、その信頼性を疑問視する声もあったが、その有効性を証明する研究結果がコロンビア大学より発表された。
 
TEXT BY CHELSEA LEU
TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI, HIROKO GOHARA/GALILEO
 WIRED (US)
 
 10年ほど前から神経科学者たちは、被験者の脳内で何が起きているかを調べるために、ある新しい手法を使い始めた。被験者に何か作業を与えて脳を観察し、どの部分が光るかをみるかわりに、仰向けになって自由に瞑想したまま、約6分間眠らないでいてもらうのだ。
 
イメージ 1この手法は「安静時fMRI」(Resting state fMRI)と呼ばれる。
 
この安静時fMRIは、ほかのfMRIの手法と同じ問題を抱えている。
 
fMRI機能的磁気共鳴映像装置はもともと脳内の血流の変化だけを追跡するものであり、信号を送り出すニューロン自体を追跡するものではないという問題だ。
 
fMRIは最近、統計的な信頼性の点で疑問視されている。特に、脳が特定の作業をしていないときの計測については、結果はさらに不確実とみなされている。
 
これらの信号は、本質的に偶発的なものだとされてきました
 
と、コロンビア大学ザッカーマン研究所で生物工学を研究しているエリザベス・ヒルマンは述べる。
 
さらに、ノイズが多い環境下でランダムに起きる何かを測定しようとしたとき、実際にランダムなものとそうでないものを区別するのは非常に難しくなります
 
6年前、この分野のほかの研究者たち同様に、ヒルマンは安静時fMRIには期待されているほどの測定能力がないのではないかという大きな疑問を抱いていた。
 
しかし、2016年12月発行の『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』で発表された論文のなかで、ヒルマンはそれとは反対の有力な証拠を発表した[PDF]。彼女は安静状態における脳全体の神経活動を広範囲にわたって視覚化し、脳内を流れる血液がニューロンの動作を実際によく表していることを実証したのだ。
 
1992年に研究者のバラト・ビスワルが、ただ座っているだけの人々の脳スキャンを始めて以来、安静時fMRIは普及し続けている。
 
その理由のひとつは、一般的な「作業時fMRI」よりも簡単だからだ。
 
「(作業時fMRIで)統合失調症を調べたければ、患者を磁気装置のなかに入れて何らかの作業をしてもらう必要があります。統合失調症であるかどうかテストするために、どのような作業が最適だというのでしょう」
 
とヒルマン准教授は言う。
 
安静時fMRIは、脳のどの領域同士が機能的に接続しているかを把握するのにも有効だ。研究者たちは、脳が特に何もしていないときに、同じタイミングで光る箇所を見つけるだけでいい。
 
イメージ 2
 
安静時研究の多くは、脳の小さなセクションに焦点を当てたものだが、その主な理由はカメラの性能に制約があるからだ。
 
このため、脳がどのように組織されているかをより広範囲にわたって調べた人はいままでいなかった。ジョージア工科大学の脳神経科学者シェラ・カイルホルツは、
 
「都市の交通パターンを見ているようなものです」
 
と説明する。フリーウェイで渋滞があった場合、クルマのなかから見ると、物事は恣意的に起きているように見える。しかし鳥瞰的に見てみると、クルマの動きには意味があることがわかるのだ。
 
脳への覗き窓が開けるか
 
ヒルマンの研究室では、実験方法を確立するのに何年もかかった。マウスの脳をスキャンすることが難しかったからだ。マウスがスキャナ内で動かないようにするには麻酔をかけなければならないが、麻酔をかけると研究対象となる脳信号が歪んでしまう。
 
このため、彼女たちは外科手術でマウスの頭蓋骨を薄くし、脳の表面が見える状態にしてから、レーザー加工した一組の小さなプラスティックの角のようなヘッドプレートを、瞬間接着剤を使ってマウスに貼り付けたのだ(ヒルマンいわく「わたしたちは瞬間接着剤の大口消費者です」という)。
 
モルヒネと餌を与えられたマウスが回復すると、科学者たちはカメラと数個のLEDを備えた場所にマウスを固定し、2種類の追跡を行った。
 
まず、
 
a. ヘモグロビンに含まれる酸素を利用し、血液がマウスの脳内のどこを流れているか調べる。
b. 次に、カルシウムに反応して緑色に光るタンパク質を使って、どのニューロンがいつ信号を出しているかを測定したのだ。
 
この結果、これらの2つの要素がかなり一致することがわかった
 
つまり、血流は神経が何をしているかをよく表すものであり、神経活動は血流における「クルマの運転パターン」のようなものだということである。
 
この結果を導き出すために、ヒルマンのチームはニューロンの明滅の生データのなかからゆっくりした変化を抽出し、安静時における脳活動の詳細な画像を作成した。
 
ニューロンはリズミカルに左右対称で明滅しており、頭がクラクラするほど光が点滅するミュージックヴィデオのようにも見える。
 
ただし、この明滅とともに実際に何が起きているのかはわかっていない。
 
「これは脳が自己チェックをするために不可欠なものだと、わたしは考えています。しかし、その実際のメカニズムは未知の領域です」
 
とヒルマンは言う。
 
今回の論文では、脳の安静状態について明確な見解のひとつが初めて示された。
 
しかし、ヒルマンの研究室が追跡した血流のなかには、見つかった神経パターンと一致しないものもあり、その理由はまだわかっていない。
 
ノイズの入ったデータや実験の方法、ほかの無関係の血液パターンが原因とも考えられる。
 
それでも今回のような、より詳細で規模の大きな研究は、ほかの科学者がこれらのパターンの謎を解き明かす道を開くものだ。
 

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