地質学的ブレグジット 英国が欧州大陸から分離した謎ついに解明?
2017年04月06日 03:41 【4月5日 AFP】
50万年近く前、現在の英国と欧州大陸をつないでいた地稜が幅数十キロにわたる巨大な滝によって崩壊し、巨大洪水でイギリス海峡(English Channel)がくりぬかれ、陸続きではない英国の島が形成されたとの研究論文が4日、発表された。
地質学者の国際研究チームは、同業の専門家らを100年余り悩ませ続けてきた難問に今回の研究でついに答えを出したと主張している。
研究チームが着目したのは約45万年前の氷河期だ。この時代には、北半球の大半が分厚い氷河に覆われ、海水位は現在よりはるかに低かった。
この時代に関する仮説では、現在のイギリス海峡となっている所は乾燥寒冷で、ツンドラ(凍土帯)のような地帯だったとされている。
この地帯には白亜質の堆積岩が隆起し、現在のドーバー海峡(Strait of Dover)の部分で英国と欧州本土をつないでいた。
研究チームは、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に発表した研究論文の中で、現在の北海(North Sea)南部に当たる陸地を覆う氷冠の端と隆起した堆積岩の急斜面の間に内陸河川が流れ込んで巨大な湖が形成されたことを示唆している。
この湖の水が地稜を越えてあふれ出し、幅約32キロ、高さ100メートルに及ぶ巨大な滝となって、はるか下方の谷に向かって猛烈な勢いで流れ落ちた。
この「ダム」の頂上部分が滝で浸食され、やがて壁面に亀裂が生じて崩壊。
その影響で発生した津波にえぐられて現在のイギリス海峡が形成された、というのが同研究チームの説だ。
論文の共同執筆者で、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)のサンジーブ・グプタ(Sanjeev Gupta)氏は
「(英南東部)ドーバー(Dover)と(仏北部の港湾都市)カレー(Calais)との間にあったこの地峡の崩壊は間違いなく、英国史上最も重要な事象の一つであり、今日でもなお、島国である英国のアイデンティティーを形作る要因となっている」
と話す。
■劇的な崩壊と断絶なければ英国は今も地続き
「氷河期が終わり、海水面が上昇し、谷底に水が絶え間なくあふれ出した結果、英国と欧州本土は物理的に切り離されてしまった」
「こうした劇的な崩壊と断絶が起きなければ、英国はまだ欧州の一部だっただろう。これこそ最初の欧州からの離脱、ブレグジット(Brexit)1.0だ。このブレグジットは、国民投票によるものではないが」
とグプタ氏は述べている。
氷河湖がイギリス海峡を形成したという仮説は100年前に最初に提唱されたが、その後は思うような進展がみられなかった。
だが今回の最新研究では、この氷河湖説を裏付けるような新たな証拠が見つかっている。
大きな手掛かりは、イギリス海峡の海底岩盤で発見された巨大な穴から得られた。最大で直径数キロ、深さ100メートルに達するこれらの奇妙なくぼみは、内部が砂利と軟質の砂の堆積物で満たされている。
■仮説裏付ける「滝つぼ」の発見
穴は、1960年代と1970年代に英仏海峡トンネル(Channel Tunnel)の予備調査の一環として、海底で試験孔の掘削が行われた際に偶然発見された。
これらの穴は、いわゆる「滝つぼ」だと研究チームは考えている。
滝つぼは通常、大きな滝の真下の河床が削り取られてくぼみになった部分だ。穴はいずれ大きくなり、滝の壁面がもろくなって崩壊する可能性もある。
研究チームは、最新の水中音波探知機(ソナー)による海底スキャン調査と、異なる岩石層を識別するためにエネルギーのパルス反射を用いる「地震反射法」と呼ばれる技術を使って、これらの巨大な穴のうちの7個がカレーとドーバーの2つの港の間をつなぐ直線上に並んでいることを発見した。ドーバーは、氷河湖説に登場する地稜の端に位置する。
同チームはさらに、イギリス海峡の海底では、大量の水が流出したことを示す古代の巨大な谷の痕跡も確認している。
(c)AFP/Richard INGHAM