中国人大卒 欧米の脅威 ハイテク、金融などに大量流入で競争激化
2014.4.17 05:00 SankeiBiz
記念撮影をする浙江農林大学の卒業生。中国では大卒者の人材が急増している=中国浙江省(AP)
記念撮影をする浙江農林大学の卒業生。中国では大卒者の人材が急増している=中国浙江省(AP)
「工場で集団作業に従事する人たち」といった中国人労働者に対するこれまでのイメージは、大幅な修正を余儀なくされそうだ。
大卒者が急増する同国では、米国の有名大学で教育を受けたエリート層が新たな労働力として台頭。
世界的に活躍できる人材として今後テクノロジーや金融、サービスといった分野へ大量に流入するとみられる。
すでに米産業界からは、企業間競争の激化や雇用・賃金体系変化など市場への甚大な影響を警戒する声が上がっている。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)で金融学の修士号を取得したチャン・シーさん(26)は、次世代の中国人労働者を象徴する存在だ。
香港の投資銀行と北京の石油会社に勤務した経験を持つシーさんは現在、友人2人とインターネット関連の会社の立ち上げを検討中。
流暢な英語でインタビューに応じ
「大きなチャンスが訪れようとしているときに傍観者ではいたくない。若い人たちにはものすごい数の選択肢が与えられている」
と話した。
◆ 1億9500万人の予想
今年大学を卒業予定の中国人学生は700万人近くで、2001年の110万人から大きく増加。
20年までに中国人大卒者で構成する人材プールは1億9500万人に達する見通しだ。これは同年に予想される米国の全労働人口を上回る規模。
中国は毎年ざっと20万人の留学生を米国に送り込んでいる。米国から中国へ学びに来る留学生はこの10分の1程度にすぎない。
これまで中国は莫大な労働人口にものを言わせ、主に製造業の分野で欧米企業に対抗してきた。しかし今や同国の労働市場は米国仕込みの技能や知識を身につけた大卒の人材が主流を占めつつあり、IT(情報技術)や各種サービス業で欧米に新たな脅威を与えている。
香港に拠点を置くファン・グローバル・インスティチュートの代表を務めるウィリアム・オーバーホルト氏は
「今後は銀行や保険会社、ソフトウエア会社なども中国との競争を視野に入れなくてはならないだろう。これらの領域で中国勢が強みを発揮するという状況はこれまでなかった」
と分析する。
中国商務省は同国の昨年の貿易高4兆2000億ドル(約429兆円)について、国内の労働力によって生み出された高付加価値商品の額が全体の半分超に上ったと発表した。逆に単純な加工・組み立て作業に基づく製品が占める割合は、10年時点の39%近くから3分の1未満に縮小した。
◆ 手薄な箇所を突く
カナダのトロント大学でイノベーション(技術革新)を研究し、中国の経済政策に関する共著書もあるダン・ブレズニッツ教授は、人数で他国を圧倒する中国人大卒者について
「必ずしも欧米に真っ向勝負を挑むのではなく、こちらの手薄な箇所を突いてくるだろう」
と指摘。欧米企業による技術革新が不十分な電力インフラ部門などの調査・研究に重点的に携わるようになるとの見方を示した。
一方で高学歴の中国人労働者の急増は、人材の供給過剰を引き起こし、最終的にマクロ経済全体にも重大な影響を及ぼす可能性がある。
ハーバード大学のエコノミスト、リチャード・フリーマン氏は、大量の中国人労働者が国外で働くようになれば、受け入れる側の先進国で賃金に対する押し下げ圧力が働くことは避けられないと懸念を示す。
中国国内でも、大卒者への十分な就職口は確保されていないのが実情だ。
政府は具体的な数値を明かしていないが、四川省の西南財経大学が発表した中国家庭金融調査報告によると、25歳以下の大卒者の11年の失業率は16.4%。
特に新卒者の失業率は、高等教育を受けていない層を大幅に上回るという。
(ブルームバーグ David J.Lynch)