iPadを捨ててPCを採用 悩みが尽きない米国の教育現場
2014.8.14 20:31 産経
先進国では多くの人にパソコンやスマートフォンが行き渡った結果、もはや市場が急激に拡大する余地がないと考えられている。しかし、まったくIT化されていない領域がある--教育機関だ。
文: 三国大洋(taiyomikuni.com)
教育分野のIT化が進まないのは世界的な現象といえる。
子どものうちは「紙とクレヨン」の方が良いと考える親も多く、また早くからタブレットやパソコンを使うことで猫背やストレートネックになるといった健康面での課題もある ©ロイター / AFLO
ニュースのポイント
「iPad」に「Chromebook」に「タブレットPC」……いろいろな選択肢があって悩ましいのは大人の世界だけではない。アメリカの教育現場では、すでに
「BYOD(Bring Your Own Device、職場や学校で私物デバイスを使うこと)でいこう」
というケースが出てきた。
iPadかChromebookか
Appleが7月に決算を発表した時、iPadが売れなくなってきたことが話題になった。
当時、この「GQ Briefing」でも、「売れ行き鈍化のiPad、しかし事業規模には目を見張るものがある」という記事で解説したので、覚えている読者も多いだろう。
その記事では、売れ行きが鈍ったといっても、iPadの年間売上はマクドナルドやタイム・ワーナーと同じくらいの事業規模だ、と書いた。今日のニュース解説は、その続きといえそうな話である。
米誌『The Atlantic』に、米ニュージャージー州のヒルズバラ・ミドル・スクールという中学校で、AppleのiPadとGoogleのChromebookを同時に導入する実験があり、最終的にはChromebookが選ばれたというレポートが載っていた。
この中学校では2012-13年度に、iPadとChromebookを約200台ずつ導入して生徒に配布、その実験を通じて集まった生徒や教員の声を吟味した結果、全校でChromebookを導入することになった。
iPadで授業を行っていた教師の中には、この判断を聞いて「最初は少しショックだった」と反応する人もあったようだが、Chromebookを渡された生徒がすぐにそれを使い始めた様子を目にして、
「やっぱりこっちの方が(iPadよりも)ずっと便利だ」
と感じたという。
この学校がChromebookを選んだ3つの理由はこうだ。
まず最初の理由として、iPadは遊びの道具だが、Chromebookは仕事のためのツールだと認知されていること。2番目の理由は、ハードウェア・キーボードが付いていることが挙げられている。
特に、もうじき導入がはじまる統一カリキュラム「コモン・コア」のオンラインテストではキーボードが必須なのだ。そして3つめの理由が管理の難易度。クラウドベースのChromebookの方がメンテナンスがはるかに簡単だ、という結論になった。
そのほかにも、教育機関向けのクラウドサービス「Google Apps for Education」を使った共同作業は、iPadよりもChromebookの方がやりやすいとか、価格面で399ドルからのiPadよりも279ドルからのChromebookのほうが安価、という理由もあったようだ。
こうして理由をひとつひとつ挙げてみると、
「なんだ、結局大人の世界と一緒じゃないか」
という印象だ。
Chromebookはネット接続がなければほとんど使い物にならないはずだけど、それは弱点にならないのか?という疑問もすぐに浮かぶ。
この記事にはその点について触れた部分がないため、生徒の家庭には何らかのネット接続環境がある程度には豊か、ということだろう。ブロードバンド環境が未だに貧弱な米国では、低所得世帯の子どもたちは、Wi-Fiをキャッチするために図書室を訪れたり、わざわざ近所のマクドナルドに出かけたりするのだが。
教育現場でも「BYOD」
『The Altantic』の記事では、米国の教育現場がどんなタイプの端末を使えばいいのか、未だに決めかねている様子が描かれている。ニュージャージーの中学校のようにChromebookに統一したところもある一方で、
「タブレットとPCのハイブリッドが良い」
という学校もあったり、全体としては財源の豊かな地域もそうでないところも
「一番人気はやはりiPad」
であることが記されている。
さらに、同じ学校の中で
「ChromebookとNexusタブレットを併用し、用途によって使い分けている」
というケースも紹介れており、ますます大人の職場と同じじゃないか、という感じがしてしまう。
そういう状況を踏まえて、
「使える予算に限りもあることだし、『生徒に何を支給するか』を学校側が決めるのはもう無しにして、この際だからBYODにしてしまおう」
という学校も一部で出てきているという。
以上のような次第で、iPadをもっと売りたいAppleとしては、外部の力も借りながら、キーボードの欠如を補う方法を考えたり、クラウドを使った管理やコラボレーションの部分をもっと強化していく必要がある。
また、Googleも、取り回しの良さの部分の改善や多言語化などの点で、外部の力を借りなくてはならないところも多いはず。そう考えてみると、当事者のAppleやGoogleだけでなく、外部の人間にもまた教育分野に多くの事業機会がある、ということになろうか。
米国の教育関連の市場規模については、
「2014年度に推定99億4000万ドル程度がK-12(高校卒業までの13年間)のテクロノジー関連分野に投じられる」
とある。