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多重リング式コロナ放電イオン風による脱臭技術

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なぜエビ養殖から画期的な脱臭機は開発されたのか?
 
(PRESIDENT Online ) 2015年2月18日(水)配信    news.nifty.com

 消臭・脱臭機は大手メーカーも競い合う市場だが、横浜市に本社を置く片野工業は中小企業ながら小型で高性能の脱臭機を開発、大手医療機器メーカーのテルモから発売されて評価を得ている。
 
同社の本業は輸送用コンテナの修理・改造だが、社長の片野明夫はエビ養殖に興味を持ったことから脱臭機開発にたどり着いた。
 
■ドライバーに人気の高性能脱臭機
 
自動車特有の臭いは気になるものだ。特にタバコを吸ったり、車にペットを乗せる人にとっては、気軽に友人を乗せることもためらわれる。
 
2013年に発売された「エアーサクセスソーラー」はそんなドライバーたちに人気の高性能脱臭機である。
 
大きさは約14センチ四方で高さが4センチという小型で、走行中はシガーソケットを電源に、駐車中はソーラーパネルで作動する。大手自動車ディーラーなどでも発売している。
 
その脱臭力は証明済みで、たくわんやタマネギの腐ったような臭いであるメチルメルカプタンが2時間で半減する。
 
さらに、インフルエンザを不活化し、大腸菌・アオカビなどの除菌効果もある。
 
しかも、独自に開発した技術によって、ファンもフィルターも使わない。そのため、静音でメンテナンスの手間・コストもかからず、省電力だ。
 
開発したのは片野工業。
 
本業は輸送用コンテナの修理や改造および輸出梱包業務などを手がけている。そのため、横浜港の本牧ふ頭近くに本社を置いている。本業とかけ離れた脱臭機を世に送り出したのは創業者で社長の片野明夫(53)である。
 
片野は当初、脱臭や消臭に関心があったわけでもなく、ましてやその道の専門家でもなければ、知識があるわけでもなかった。
 
実に不思議な奇縁の連鎖によって、運命の糸に導かれるように脱臭機開発に取り組むことになったのだ。
 
「脱臭機を開発しようとすると、社員は
 
『すでに大手がやっているんだから』
 
とあきらめムードでした。でも、やりもしないであきらめるのはおかしいでしょう。先ずはやってみることですよ」
 
と片野は楽しげに語る。
 
このエアーサクセスソーラーは同社にとって第2弾の商品で、実は脱臭機第1号は2011年末に発売した「エアーサクセスプロ」である。エアーサクセスソーラーは車載用に改良したものだ。
 
以下は、断りのない限りエアーサクセスプロについての説明である。
 
■独自に開発したコロナ放電技術
 
筆者が片野工業を訪れたとき、片野は1つの実験を見せてくれた。
 
16センチ四方で高さ5センチのエアーサクセスプロを半透明の箱に入れ、タバコの煙を充満させた後、スイッチを入れるとたちまち煙が消えていき、タバコの臭いもなくなった。
 
脱臭の原理は、片野が独自に開発した「多重リング式コロナ放電技術(MRD)」によって発生するイオン風の中に含まれる高濃度イオンと低濃度オゾンが、臭い物質やカビ・雑菌・ウイルスに吸着して、ラジカル反応を起こして分解あるいは不活化する。
 
ラジカル反応とは分子が他の分子から連鎖的に電子を引き抜く現象である。
 
 かつて、「マイナスイオン」など曖昧な定義で疑似科学と問題視されたこともあったが、MRDはコロナ放電というれっきとしたイオン生成の現象を利用しており、しかも従来型のコロナ放電より約3倍のイオン風を発生させるという。
 
イメージ 1
 
一般財団法人日本食品分析センターが行ったエアーサクセスプロの脱臭効果試験によると、アンモニアは作動後2時間で半減、魚臭に似たトリメチルアミンは3分の1以下に減少。
 
インフルエンザウイルスは24時間後に約3分の1になり、大腸菌や黄色ブドウ球菌、アオカビは24時間後に検出できないほどの量に減った。
 
コロナ放電は尖った針電極に高電圧がかかると起こるが、発生するイオン風は弱く、部屋中に拡散できなかった。
 
片野は、試行錯誤を繰り返した結果、ステンレス板に同心円状のリングを複数配置した独自の電極形状を開発した。
 
このリング電極の中心から外側に向かってコロナ放電が連鎖的に起こることで、大量のイオン風を作り出すことに成功した。エアーサクセスプロではリング電極が4つ並んでいる。
 
片野は2009年から約1年をかけて開発し、10年には国内特許を取得した。
 
続いて韓国、アメリカ、中国、インドネシア、タイでも特許を取得、権利化された。現在、EU、インド、ベトナムも登録査定を待っている。また、13年には特許協力条約に基づくPCT国際出願も果たした。
 
その性能は大手医療機器メーカーのテルモが認め、代理店として販売を担っている。
 
 実勢価格は2万円前後で、現在までに販売台数は4万台を超えた。一般の病院や動物病院、ペットを飼っている家庭などで好評だという。ペットの糞の臭いもたちまち消える。
 
■エビ養殖でイオン脱臭に出合う
 
片野は子供の頃からものづくりが好きだった。トヨタ自動車に入社後は板金関係の仕事に就いたが、その後、横浜の自宅近くにあったコンテナ修理の会社に転職した。輸送用のコンテナは一度使用されると修理工場に運ばれ、洗浄、メンテナンスを施して荷主に返される。荷主に信用されれば、安定した取引が続くビジネスだ。
 
片野は一通り仕事を学ぶと、1990年に29歳で独立。社員6人で片野工業を設立した。毎月数千本のコンテナを処理するようになったが、片野はその傍らで中古コンテナを改造したガレージや簡易事務所、防災倉庫、カラオケボックスなどを作って販売していた。
 
コンテナ修理だけでなく、輸出梱包や荷物の仕分け・検品・出荷業務も手がけるようになったが、円高で次第に注文が減っていった。
 
「コンテナだけでは景気や為替相場に左右され、仕事量にも波がある。社員を路頭に迷わせるわけにはいかないので、もう1本事業の柱がほしいと思っていました」
そんな片野に思わぬ出合いが訪れた。それは、2004年、仕事で出かけた静岡県の、たまたま入ったレストランでエビフライランチを注文したときのこと。
 
「30センチもあろうかという巨大なエビフライが出てきたのでびっくり。

 お土産として持ち帰り、社員に振る舞いました。こんな大きなエビを陸上で養殖できたら商売になるのではないかと思ったのです」
 
そこから片野はエビ養殖にのめり込んでいく。調べると日本でのエビの1人当たり消費量は圧倒的な世界一で、販売ロスも少なく、エビの成長が早いこともわかった。
 
ベトナムのエビ養殖場まで視察。だが、エビの排泄物や脱皮殻、餌の残滓などで、養殖地はヘドロ化していた。
 
ひどくなると養殖地を移し、後はヘドロ沼として放置されていた。
 
こんな環境破壊は許されないと片野は、コンテナによる陸上養殖を考えた。
 
それならば環境も破壊せず、日本の食糧自給率向上にも役立つ。
 
■テルモが販売提携先になった理由
 
06年から片野はコンテナ水槽を作り、何トンもの海洋深層水を購入してエビを育て始めた。社員はあきれて見ていたが、片野は毎夜、かわいいエビを見つめながら餌やりを続けた。
 
だが、排泄物や餌の残滓などがアンモニアに変わり、悪臭を放ち始めた。1カ月ごとに水槽の半分の水を替えなければならず、資金がかかった。
 
何とか水を浄化する装置を作れないものかと、専門家を訪ね歩き、装置を開発した。また、水中の酸素濃度を高めてエビの成長を促進しようと、ナノバブル発生装置を導入した。
 
すると、ナノバブルによって発生したイオンが水中の臭いを消し、雑菌を分解した。
 
片野はイオンの威力に驚き、エビ養殖から脱臭・除菌に関心が移った

 市販されている脱臭除菌機をすべて買ってきて、効果を試し、分解した。そして、小型のコロナ放電タイプ脱臭機を自ら開発することを決断し、MRD方式の開発に至った。
 
手作りで試作機を100台ほど作り、社員や知り合いに配ると、その効果が評判となり、片野は事業化に踏み切ることにした。
 
だが、販路を開拓するのは難しい。販売を担ってくれる提携先を訪ね歩いたが、効果を試そうともせず門前払いだった。
 
「大きな会社ほどおごりがあり、傲慢な対応をされるか、『他で売れてから来てください』と言われました。つくづく嫌になりましたが、それでも50~60社ほど回った中で、テルモだけはちゃんと試験をして効果を認めてくれたのです。テルモの担当者は
 
『他社が扱っているような商品なら、うちでは扱いません』
 
と言ってくれました」
 
こうして、2011年末からテルモを通して売り出されることになり、現在は日立マクセルグローバル社と共に世界に向けた事業戦略を計画中だ。
 
「私は相手が大手企業だろうと、頭を下げることはありません。対等の関係で、提案をしているのであって、大手側も勘違いしてはいけないし、中小企業も卑屈になる必要はない。私はどんな企業と提携しようと、パートナーとして一緒に事業を進めるようにしています」

 日本の大手企業が革新的なものづくりの力を失いつつある中、こうした実力ある中小企業との対等な提携が増えなければ、ますます大手の世界的競争力は低下するだろう。
 
(文中敬称略)
 

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