松原さんの説明がとても良い。麻酔科の先生もこの位、話してくれていればと思うが、化学者だからかな?
麻酔深度モニターの話も聞いていないよ!
脳のネットワークが意識を形成という点が特に興味深い。無意識では勝手きままに働きネットワークが形成されないのかな?
鎮静薬いろいろ
福井大学6年 松原 礼佳
★ はじめに
麻酔の基本的要素として、意識消失、鎮痛、筋弛緩、有害反射の抑制がある。
バランス麻酔が今日の主流である。鎮静薬は意識消失をメインで担う薬剤である。
★ 麻酔の種類
全身麻酔法→ 吸入麻酔、静脈麻酔、筋肉内注射、直腸麻酔
局所麻酔法 → 表面麻酔、浸潤麻酔、脊椎麻酔、硬膜外麻酔、伝達麻酔、経静脈局所麻酔
★意識の基盤となる三つの脳神経系:別紙参照
脳のネットワークが意識を形成している。→ 視床皮質路・覚醒系・皮質皮質路
★ 鎮静薬の意識への作用
作用機序はまだ明らかになっていない部分が多い。
吸入麻酔薬:シナプス外GABA受容体を介して細胞の過分極を起こし、抑制的に作用するという説が有力。
静脈麻酔薬:GABAチャネルの刺激薬として働いたり、α2受容体刺激薬として働くものがある。
★ 麻酔深度モニター BIS…術中は40~60の深度で管理するのが良いと考えられている。
70~100:浅い催眠~中等度鎮静、覚醒状態
60~70:深い鎮静/浅い催眠
40~60:適切な催眠状態
0~40:深い催眠状態
★ 全身麻酔
(1)吸入麻酔法の特徴
①肺から吸収され、再び肺から排泄される(一部代謝される)
②投与濃度を変えることで速やかに深度調節できる。
③正確な麻酔薬濃度を維持するために高価な装置が必要である。
④排気ガスが環境を汚染する。
⑤体内で代謝を受け、生じた代謝産物が臓器毒性を有したり、補体と結合して抗原性を発揮するものもある。
※吸入麻酔薬の強さ
Minimum Alveolar Concentration(MAC)肺胞内最小濃度
ヒトまたは動物に一定濃度の吸入麻酔薬を投与し、安定した麻酔状態が得られたところで皮切を加え50%が動く吸入麻酔薬肺胞濃度。
影響を与える因子として、体温、年齢、妊娠、脊髄液電解質、亜酸化窒素、併用薬など。
MAC | N2O | セボフルラン | デスフルラン |
104 | 1.71 | 6 |
MAC以外の指標として
・AD95(Anesthetic Dose of 95):95%の人が麻酔状態になる吸入麻酔薬肺胞濃度。
・MAC-BAR50:50%の人が手術という侵害刺激を与えても血圧が上昇しない吸入麻酔薬肺胞濃度。
・MAC-awake:開眼命令に反応する吸入麻酔薬肺胞濃度。
※血液への溶解度(=麻酔薬の導入と回復の指標となる):別紙参照
血液/ガス分配係数
血液と肺胞気が平衡状態にあるとき、単位容積当たりの麻酔薬の気体量(37℃、1気圧で血液1mlに溶けているガスの量)。麻酔状態への導入維持、覚醒を決定する大きな要因となる。
値が小さいほど、導入・覚醒がはやい。
◎笑気:N2O
催眠作用は弱いが、鎮痛作用は比較的強い。ただし、1MACは104%であり、1気圧下では、N2O単独で強い痛みに耐えられる麻酔深度を得ることは困難である。揮発性麻酔薬、プロポフォ-ル、オピオイドなどと併用することが多い。体内の閉鎖腔を膨張させる作用があるため、気胸やイレウス、鼓室形成術、眼内ガス注入手術の患者などには禁忌である。
また、ビタミンB12の不活性化により、造血機能障害や神経障害を起こすことがある。
揮発性麻酔薬にN2Oを併用すると麻酔の導入が促進される。N2Oの血液/ガス分配係数は麻酔薬の中でも特に低いが、空気と比較すると高い。このため、高濃度のN2Oを吸入した場合、N2Oが血液に溶解する量は体内に蓄積されていたN2が肺胞へ排出される量よりもはるかに多い。
この差によって肺胞容量が減少し、揮発性麻酔薬の肺胞内濃度が相対的に上昇して麻酔の導入が促進される。これを二次ガス効果という。
◎セボフルラン
血液/ガス分配係数は0.65と小さく、麻酔の導入・覚醒が速い。気道刺激性が少ない。生体内代謝率は2~3%とやや高い。
CO2吸収剤と反応し、分解産物としてcompoundAを生成する。compoundAは、とくに低流量麻酔で腎機能障害を起こす可能性が高いと言われている。
◎デスフルラン
血液/ガス分配係数がセボフルランに比べてもさらに小さく、導入・覚醒が早い。一方、気道刺激性が強いため、全身麻酔の導入には使用せず、維持のみに使用するほうが良い。
生体内代謝率が0.02%と低く、肝腎機能の低下した患者にでも使用できる。MACが6%と高いため、高流量での使用は消費量が多くなる。よって低流量麻酔を心がける。
(2)静脈麻酔法の特徴
①静脈内に直接投与され血行性に神経系に移行するため、作用発現時間が短い。また、安定した吸入ガス濃度の維持が困難な場合でも麻酔の継続が可能である。
②単回投与・持続投与した場合、時間とともに体内に薬物が蓄積し、その影響が無視できなくなるため、吸入麻酔に比べ調節性に劣ると言われるが、TCI(target-controlled infusion:目標制御注入法)の普及により改善してきた。
③投与終了後でも代謝・排泄・再分布など薬物固有の特性に基づいて体内濃度が減少するため、拮抗薬投与を除いて薬物効果が消失するまで待つしかない。
◎チアミラール(イソゾール®)
長短時間作用型バルビツレート系静脈麻酔薬。GABA受容体に結合してCl-の透過性を亢進させ、中枢での興奮性シナプス伝導を抑制する。作用時間は10分程度だが繰り返し用いると覚醒遅延が起こる。呼吸・循環抑制、副交感神経刺激、交感神経抑制が起こる。鎮痛作用はない。
また、疼痛閾値を低下させるので疼痛が増強することがある。脳保護作用があり(脳酸素消費量↓、脳血流量↓、脳圧↓)脳外科手術で使用されることが多い。アルカリが強いため、末梢ルートがしっかりと血管内に留置されていないと組織に壊死が生じる。気管支喘息患者では迷走神経優位となり発作を誘発するため禁忌である。ポルフィリン症においても神経系脱髄が起こるため禁忌である。
◎ プロポフォール(ディプリバン®)
GABA受容体作動薬。鎮静と催眠作用がある。チアミラールよりもさらに速効性で作用時間も短い。
ATP感受性Kチャネル活性を抑制するので虚血心筋保護作用がある。
脂溶性のため、急速静注すると血管痛を生じる。循環・呼吸抑制が強い。
ダイズ、卵黄アレルギーの人、15歳以下のICUでの鎮静には禁忌である。妊婦への投与に関しては議論がなされている。
※プロポフォール症候群 propofol infusion syndrome: PRIS
集中治療分野における長期間鎮静のためにプロポフォールが投与された患者に起こる稀な致死的合併症。
代謝性アシドーシス、
脂質異常症、
多臓器不全
が進行し、除脈性不整脈、心停止に至る。
原因として、ミトコンドリアにおける脂質代謝障害や遺伝子欠損症の関与が疑われている。
◎ ミダゾラム(ドルミカム®)
ベンゾジアゼピン系静脈麻酔薬。GABA受容体に結合して鎮静作用を得る。体血管抵抗減少により血圧低下をきたす。呼吸抑制あり。水溶性で血管刺激性がない。前もって投与することで、局所麻酔中毒の予防になる。中毒発生時にも静脈内投与で痙攣の抑制が可能である。拮抗薬があるため鎮静の解除がしやすい。
◎ ジアゼパム(セルシン®)
ベンゾジアゼピン系静脈麻酔薬。作用機序はミダゾラムと同じ。抗痙攣作用、抗不安作用をもつ。循環動態の変動が少なく心臓手術などで使用されることが多い。順行性健忘が起こる場合がある。
胎盤通過性がある。急性狭偶角緑内障、重症筋無力症、ショック患者などには禁忌。高齢者、肝硬変の患者には過剰投与で覚醒遅延が起こる可能性がある。
参考文献
臨床麻酔学全書、新・麻酔科ガイドブック、麻酔科必修マニュアル
Lisa VOL.19 NO.4 2012 360-373