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新幹線放火テロと難燃性ポリエステル

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製鉄所では必ず綿の軍手が支給される。個人的な事故であるが安い化学繊維の軍手に火が移り手に大ヤケドをしたことがある。
 
燃えた軍手を脱ぐにも黒い煙とグジュグジュした粘性液体に火がついたままであった。綿の場合はサラッと燃えて手に張り付くことはない。
 
さて問題のポロエステルを如何に難燃性にするか?まさに日本の化学工業の追求するテーマである。

jcfa.gr.jp/fiber/topics/vol19

難燃繊維の製造工程そもそも「燃える(燃焼)」とは、材料の熱分解によって発生した可燃性ガスと酸素が結合する化学反応です。
 
 燃焼が始まると、熱で材料の分解が促進され、燃焼が進行、つまり「燃える」わけです。
 
イメージ 1
 
製造工程で繊維に難燃性を付与する基本原理は、材料の熱分解を抑えて分解ガスの発生を抑えること。
 
もしくは、発生した分解ガスと酸素との接触を遮断することです。その技術は主に3つあります。
 
① ハロゲン系化合物による難燃繊維

繊維高分子の中に塩素やフッ素を含む化合物を共重合させる手法です。熱分解で発生したハロゲン系の不燃性ガスが酸素濃度を薄めるため、燃焼の進行を妨げます。
 
② リン系化合物による炭化促進

リン系化合物をポリマーに共重合させる手法です。炎に触れるとリンが発生し、酸化して脱水作用を持つ物質(五酸化リン)になります。
 
繊維から水素と酸素を奪って繊維を炭化させ、その炭化物が繊維を覆います。
 
同時にリンも空気を通さない物質(ポリリン酸)に変わり、同じく繊維を覆ってそれ以上の燃焼を防ぎます。
 
③ 繊維高分子の高耐熱化による熱分解の抑制

分子同士が強く結びあったものや架橋結合でネットワークを形成させた、芳香族系の剛直性の高い高分子を使います。熱分解が生じにくいため、可燃性ガスの発生を抑えるのです。
 
合成繊維に対する防炎加工熱溶融性の合成繊維は比較的、燃えにくい性質を持っていますが、安心・安全がより強く求められる用途では、さらなる燃えにくさが求められます。リンまたはハロゲン系の化合物を染色時に、染料と併用して吸着させる方法が一般的です。
 
生地に炎を近づけて燃え始めても、炎を遠ざけると、自ら炎を上げて燃え続けたり、余じんが残って広がり続けることが無いような処理になります。
 
その方法として、水溶液の防炎薬剤に繊維製品を浸し乾燥や熱処理を加える方法のほか、防炎薬剤を分散させた合成樹脂を繊維製品の表面にコーティングするなどの方法がとられます。
 
脱ハロゲン系難燃剤へ難燃機能を付与する成分として、高い機能を発揮できるハロゲン系化合物ですが、人体などへの高い蓄積性と分解のしにくさから「化学物質の審査及び製造棟の規制に関する法律」(化審法)の「第一種監視化学物質」(国に無断で製造・輸入できない)に指定されたことで、以下に紹介する各合繊メーカーの素材のように、脱ハロゲン系難燃剤の動きが進んでいます。
 
耐候性や吸湿性も ~クラレ「バイナール®」「ポリエーテルイミド(PEI)繊維」~クラレは難燃ビニロン「バイナール®」「PEI繊維」といった難燃素材を展開しています。「バイナール®」は難燃機能を付与したビニロン繊維で、耐候性や吸湿性も持ちます。
 
作業服、防火服などの衣料用途とともに、インテリア、資材などの産業資材にも使われ、安全性が求められる分野を幅広く開拓しています。
 

新幹線放火事件で、安全性は揺らいだのか?
 
2015年07月02日(木)17時00分  newsweekjapan.jp    冷泉彰彦氏

 今週、東京発新大阪行「のぞみ225号」の車内で発生した放火事件では、自殺した71歳の男の他にも1人が死亡し、重軽傷者は26人にもなりました。
 
 このような犠牲者が出たこと、負傷していない方でも大変な恐怖を経験された方がいる中では、二度と同じような事件を起こしてはならないという意見が出てくるのも当然だと思います。
 
 では、これで新幹線の安全性は揺らいだのでしょうか? 私はそうではないと思います。依然として日本の新幹線は、世界の公共交通機関の中でも最高水準の安全性を維持していると思います。
 
 まず、難燃性ということがあります。
 
今回の事件では、大量のガソリンを撒いて放火するという悪質な方法で実行されました。目撃証言によれば、車両内が爆発したかのようにオレンジ色に包まれたと言います。ですが、結果的に車両の構造は破壊されず、隣の車両に延焼することもなく、備え付けの消火器で消火ができています。
 
 例えば2003年に発生した韓国・大邱市の地下鉄における放火事件(他編成に延焼して計192人が死亡)などと比較すると、その差は歴然としています。
 
それどころか、消火後の車両はその編成のまま自走して小田原駅まで移動、その後も徐行運転で新丹那トンネルを通って三島の車両基地まで自走しているのです。
 
 その背景には、この新幹線N700系車両が徹底して難燃性を追求してきた成果があります。例えば車両のシートですが、これは難燃性ポリエステルで作られています。
 
難燃性というと、何か燃えにくい化学物質でも塗ったり混ぜたりしているのかという印象を与えますが、そうではありません。
 
燃えると不燃性ガスを発生して延焼を防ぐ」
「早く表面が炭化してそれ以上の延焼を防ぐ」
「高分子技術を使って可燃性ガスの発生を抑える」
 
といった対策が「分子レベル」で行われている素材を使っているのです。
 
 シートの肘掛にも以前のポリカーボネート素材に比べて、柔らかくしながら難燃性を確保した新素材が、このN700系用に開発されています。
 
また、シートにカバーを固定するマジックテープには、国際宇宙ステーションの宇宙服に採用されたのと同じ技術(同一品ではありませんが)を使って難燃性を高めているのです。
 
さらに、頭上の荷棚受けの部分には、軽量化のためにマグネシウムが使われているのですが、発火温度を高めるためにカルシウムを混ぜた新合金を開発して使用しています。
 
 今回大変にひどい事件が起こりましたが、このような難燃性技術の効果があったという評価は可能だと思います。
 
新幹線は架線から交流2万5千ボルトの電気を取り込む構造上、スプリンクラー設備は漏電事故の危険性から採用はできません。
 
ですから、このように内装材の難燃化、不燃化という対策を細かく突き詰めてきた歴史があるのですが、その方向性は間違っていなかったと思います。

 その一方で、危険物持ち込み対策を含めたセキュリティ確保という点では、今後に課題を残しました。では、具体的に新幹線ではどのような対策が可能なのでしょうか?
 
 まず、手荷物チェックに関してですが、諸外国の例では欧州のユーロスターや、中国の鉄道では手荷物全件のX線検査が行われています。
 
ただ、この場合は空港のような保安検査場を設置するだけでなく、乗客は発車20分前に検査場に来なくてはならず、検査後の乗客を待たせるスペースなども必要となります。
 
特に東海道も東北、上越、北陸も3~4分間隔で発車させている東京駅ではこのような対策は全く不可能です。
 
 現在建設中のリニア中央新幹線の場合、仮に手荷物の全件検査を行うとすると、大変な努力をして東京~名古屋間を40分で結んだのに、保安検査の関係で20分前に駅に来ないといけないということになり、何のための巨大投資かということになってしまいます。
 
 ですから、アメリカのアムトラックで行っているような、ランダム、つまり全員ではなく「抜き取り検査」を行うというのが現実的でしょう。例えばですが、乗車前の場合ですと、乗り継ぎの関係でギリギリになる人、自由席の席取りを急ぐ人などがいて混乱しますから、乗車後に座席でチェックする、場合によっては発車後にチェックをするという選択肢もあると思います。それでも、抑止効果はあると思われます。
 
 一方で、アメリカのアムトラックや中国の高鉄などでは、航空機と同じような実名記名式を採用しています。(ただしアムトラックは座席指定はなし)チケット購入時と検札時には写真入りIDを提示しないといけないというシステムです。
 
 ただ、日本の場合は「マルス」と呼ばれる指定券発行システムの歴史の中で「記名式」という思想を導入したことはなく、技術的に困難が伴います。またあらかじめブラックリストに乗っている人物のチェックは出来ても、今回のように無名の個人が自殺の手段として「初犯」の破壊行為を企図したような場合には抑止力はありません。ですから、コストを考えると適用は難しいのではないかと思います。
 
 1つ真剣に検討すべきなのは、不審な行動、不審な放置物などに関する通報システムです。
 
アメリカのアムトラック(空港もそうですが)で言われている、If you See Something, Say Something.(「何か不審なものを見たら、通報してください」)ということですが、具体的には非常通報ボタンを各車両に設置するだけでは不十分だと思います。
 
混雑時にはデッキなどへ行って通報するのは不可能だからです。
 
例えば、車内wi-fiを拡大してスマホで通報できるなどのシステムは効果的と思います。
 
乗客同士のトラブルなどを一々通報されては大変という懸念もありますが、乗客同士のトラブルが危険行為に発展する可能性もあるなか、検討に値するように思います。
 

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