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膵臓ガン治療とフルオロウラシル5-FU

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道で良く会うリタイアの犬連れのオッサンがいる。なんと膵臓ガンであるという。
 
オッサンのように昼はスポーツ、毎晩多くの友人との語らい、山海の珍味、アルコール、これを10年続けたら肝臓、膵臓は萎縮してしまう。
 
入院、検査の日々であるが薬の意味を医者が教えてくれないという。そこで私に十八番が回ってきた。
 
医者とて下記のことは化学者でなくてはわかるまい!ましてや近所のオジサンでは理解不能。白金錯体の抗がん作用を少し説明してみるが大変!
 
イメージ 15まず、昔から使われてきたフルオロウラシル。まずはDNAとRNA合成阻害である。
 
そういえば若い頃アゾ化合物Pt錯体の抗がん作用の研究を少々していたね。
 
  DNA合成阻害
 
イメージ 15-FUは体内でリン酸化され、活性本体である「5-フルオロデオキシウリジン-5'-一リン酸(fluorodeoxyuridine-5'-monophosphate :FdUMP)」となり、補酵素で還元型葉酸として存在する「5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(N 5,10-methylenetetrahydrofolate)」の存在下に、チミジル酸シンターゼ(TS)と三元共有結合複合体(ternary complex)を形成することで、TS活性を阻害するという。
 
TS活性が阻害されるとチミンの合成が阻害され、DNAが作れなくなる。
 
また、FdUMPがDNAに組み込まれることでも、DNA合成が阻害される。
 
RNA合成阻害
 
5-FUは体内で「5-フルオロウリジン三リン酸(FUTP)に代謝され、UTPの代わりにRNAに組み込まれることで、F-RNAを生成し、RNAプロセシング及び、mRNA翻訳を妨げる。

膵臓ガン治療の難しさ
 
 c120378990ckenkou.blog.so-net.ne.jp/2014-07-02
 
 FOLFIRINOXは薬剤というより4つの薬の併用。
イメージ 3
 
(オキサリプラチンoxaliplatin、イリノテカンirinotecan、レボホリナートカルシウムlevofolinate calcium、フルオロウラシルこの4つの薬を組み合わせたもの)
 
levofolinate calcium
イメージ 2
chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB0193805
 

irinotecan

イリノテカンは日本で開発された直物アルカロイドの誘導体です。DNAに作用する酵素トポイソメラーゼを阻害して抗がん効果を生み出すとされています。
イメージ 4イメージ 5
 
国内では広範ながんに用いられ、有効性が確認されていますが、その分副作用も強く、重篤な下痢は致命的になるケースもあります。(anticancer-drug.net/plant_alkaloids/irinotecan)
 
Wiki
フルオロウラシル(fluorouracil、5-フルオロウラシル、5-FU)は、フッ化ピリミジン系の代謝拮抗剤で、抗悪性腫瘍薬(抗がん剤)。ウラシルの5位水素原子がフッ素原子に置き換わった構造をしている。
 
1956年にDushinskyらによって合成され、その後Heidelbergerらを中心として基礎および臨床にわたる広範な研究で抗悪性腫瘍剤としての評価が確立された。
 
代表商品は「5-FU XX(剤形)協和」(協和発酵キリン)。
 
古くから有るため、ジェネリック医薬品も多数流通している。 また、1990年代よりフルオロウラシルのプロドラッグ化などの改良を施し、より強い効果が期待される薬剤(内用薬)が開発され、市販されている(後述)。

Summary of some of the strategies that have been investigated for increasing the anticancer activity of 5-fluorouracil (5-FU)
 
イメージ 6
 
イメージ 7
 
 
Leucovorin (LV) increases the intracellular pool of 5,10-methylene tetrahydrofolate (CH2THF), thereby enhancing thymidylate synthase (TS) inhibition by fluorodeoxyuridine monophosphate (FdUMP). Eniluracil and uracil inhibit DPD-mediated degradation of 5-FU.
 
Methotrexate (MTX) is thought to increase 5-FU activation by increasing phosphoribosyl pyrophosphate (PRPP) levels. Interferons (IFNs) have been reported to enhance thymidine phosphorylase (TP) activity, abrogate acute TS induction caused by 5-FU treatment and enhance 5-FU-mediated DNA damage.
 
Capecitabine is a 5-FU pro-drug that is converted to 5'-deoxy-5-fluorouridine (5'DFUR) in the liver by the sequential action of carboxylesterase and cytidine deaminase. 5'DFUR is converted to 5-FU by TP.
 
テガフール:5-フルオロウラシルの工夫

昔から使われている抗がん剤として5-フルオロウラシルがありますが、この薬にはいくつか問題点があります。その一つとして、半減期の短いことが挙げられます。
 
イメージ 85-フルオロウラシルの半減期は約10分です。
 
そのため、そのままの状態では作用時間がとても短いです。薬を服用してもすぐに効果がなくなってしまうため、扱いが難しく何回も投与しなければいけません。
 
そこで、プロドラッグ化を施すことによって半減期を長くしてやります。このような工夫をした薬がテガフールです。

テガフールは肝臓の代謝酵素によって徐々にフルオロウラシルへと変換されます。
 
テガフールの半減期は約7.5時間であるため、これだけの時間をかけて少しずつ抗がん作用を示す有効成分へと変化していきます。 
 
イメージ 9
 
これによって、抗がん剤の半減期を長くして効果を持続させることが可能になります。
 
ティーエスワン(TS-1):テガフールの工夫

このように、5-フルオロウラシルを工夫したものとしてテガフールがあります。
 
そして、このテガフールの作用をさらに改良した医薬品がティーエスワン(TS-1)です。
 
抗がん剤は副作用が強いことで有名です。これは5-フルオロウラシルも例外ではなく、下痢や悪心・嘔吐の副作用が強いです。
 
また、テガフールによるプロドラッグ化を行ったとしても、それでも抗がん作用を得るための十分な血中濃度を得るには不十分です。
 
イメージ 13そこで、これらの問題点を改善させた薬としてテガフール、ギメラシル、オテラシルカリウム(商品名:ティーエスワン)があります。
 
三つの薬剤が配合されていることにより、
 
「5-フルオロウラシルによる副作用を回避しながら、抗がん剤としての効果も強める」
 
という事が可能になっています。
 
イメージ 10
 
前述の通り、テガフールは5-フルオロウラシルのプロドラッグです。薬をプロドラッグ化することによって、半減期を長くしています。
 
ここに、さらに5-フルオロウラシルの作用を強めるための薬を付け加えます。この作用をする薬剤がギメラシルgimeracilです。
 
 
 
 
 
 
 
 Figure 1.
Outline of the evolution of oral 5-fluorouracil–based treatments in Japan. Abbreviations: 5-FU, 5-fluorouracil; DPD, dihydropyrimidine dehydrogenase; TS-1, tegafur, gimeracil, and oteracil; UFT, tegafur plus uracil.    (theoncologist.alphamedpress.org/content/15/1/26/F1.expansion)
イメージ 11
 
 
 
テガフールは肝臓で代謝を受けることによって5-フルオロウラシルへと変換されます。
 
イメージ 14この時、テガフールが5-フルオロウラシルへと変換されると同時に、肝臓に存在するその他の酵素によって分解・不活性化が行われます。
 
5-フルオロウラシルによる抗がん作用はがん細胞に届くことでようやく効き目を表すようになります。
 
そのため、5-フルオロウラシルががん細胞に到達する前に肝臓で代謝されてしまうと、その分だけがん細胞を殺す作用が弱くなってしまいます。
 
そこで、肝臓で5-フルオロウラシルが代謝・分解される過程を阻害します。
 
これによって、5-フルオロウラシルの効果が持続するようになります。
 
なお、この時に肝臓で生成する分解物は神経毒性にも関与しているため、ギメラシルは5-フルオロウラシルの効果を高めるだけでなく副作用を軽減する役割も果たしています。
 
また、細胞増殖の速い細胞はがん細胞だけでなく、「白血球などの血球成分」や「小腸粘膜などの消化管」も増殖速度が速いです。
 
そのため、5-フルオロウラシルの副作用としては白血球の減少や消化管障害による下痢などがあります。
 
この時、5-フルオロウラシルはがん細胞の中に入った後に活性化することで細胞毒性を示すようになります。この細胞毒性が抗がん作用の本体となります。
 
これと同じように、5-フルオロウラシルが消化管に分布した後で活性化すると、消化管障害を引き起こします。血液成分を作る骨髄に分布した後に活性化すると、白血球の減少などの作用が起こります。
 
そこで、例えばがん細胞での5-フルオロウラシルの活性化を抑制することはないが、小腸など消化管の細胞での活性化を抑えるように設計します。すると、5-フルオロウラシルによる副作用を軽減することができるはずです。
 
イメージ 12 このように、消化管での5-フルオロウラシルの活性化を抑制する薬としてオテラシルカリウムがあります。消化管細胞での細胞毒性を防ぐことが出来るため、オテラシルカリウムを配合することによって消化管症状の副作用を回避することができます。
 
このように、
 
1.「抗がん剤としての活性本体であるテガフール」、
2.「5-フルオロウラシルの作用時間を延ばすギメラシル」、
3.「5-フルオロウラシルによる消化管障害を抑制するオテラシルカリウム」
 
の三剤を配合した抗がん剤がティーエスワン(TS-1)です。
 

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