パワーポイントが出た頃は驚いたものである。学会前に苦労して作成していたスライドが簡単に作れたのであるから。しかし、最近は嫌悪感が増大しつつある。
たとえば何ら実験をしていない院生が過去の先輩データーなどをパワーポイントで示して研究発表する様を見ていると嫌になることがある。PPTは子供でも赤ん坊でも誰でもがそれなりのプレゼンテーションをしてしまう。
発表者は前面にでないでPowerPointが主役になり聴講者とのコミュニケーションはあまりない。即ちつまらない発表になる。
PowerPoint導入で学会での発表も白熱しなくなった気がする。昔1会場で行なっていたのがA~Gまでおまけにポスター発表まで!要するに誰でも研究発表をビジュアルに簡単に発表できるのである。
*昔、若い頃あるグラフをスライドで説明していた。速度が濃度が高い領域で飽和してしまうケースであったが、私は1本の直線を引いてしまった。そうしたら、今は亡き東北大のS教授が挙手して質問された。
「君、虚心坦懐に結果を見ると飽和曲線である。何故直線にしたのか」
と。冷や汗をかいて説明したことをいまでもはっきりと覚えている。
名古屋大の大御所Y寺教授にもある懇談会で
「OH-イオンが溶液中で動くことは無い!プロトンリレーで拡散律則で進むのだ。君の説明はオカシイ!」
と。これも
「純粋中ではそうですが、有機溶媒との混合溶媒中ではそうではないケースがあるのではないでしょうか」
と妙な返答をしたものである。
kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2011/111128_2
偉い教授と若者研究者とのコミュニケーションが頻繁に行なわれていたのであった。
今は熱というか元気さというか何かが消えたのである。PowerPoint発表を聞くのが苦痛になって来た。Amazon ベソス氏「もうパワーポイントは禁止」というのが分かる。
私も講義は大変であるが話術と板書に戻ってしまった。九大農教授のように100人の学生を前にしてアダルトを放映という恥ずかしいこともなくなる!
敵はパワーポイントにあり ? パワーポイントの弊害、米軍大将らが指摘
it.srad.jp/story/10/04/30/0143243/
パワーポイントの弊害に辟易しているのはビジネスパーソンだけではないようだ。アフガニスタン軍事戦略の複雑さを表わすものとして、昨年米軍が作成したというスライドがこちら。これを見せられた Stanley A. McChrystal 司令官は
「これが理解できれば、戦いに勝てるという訳だ」
と冷ややかにコメントしたという。
このスライドはその後インターネット上に広く出回りジョークの種となっているそうだが、軍の上層部は
「パワーポイントは頭を悪く」
し、
「内なる脅威」
ですらあると真剣に危惧しているという。
また「パワーポイントレンジャー」と揶揄される下級将校らが会議資料の準備に明け暮れてしまうことも問題とされているとのこと。
イラクでタルアファーという街を制圧する作戦を率いた際、パワーポイント資料を禁止したという H. R. McMaster 大将は
「問題はスパゲッティ・グラフィックにあるのではなく、何かの説明を箇条書きで切り取ってしまうことにある」
と指摘する。箇条書きでは互いに作用しあう政治、経済、民族の力を考慮に入れることができず、これらの要素を除いてしまうと戦争ではなく単なる攻撃訓練のようなものになり下がってしまうとのこと。
他の指揮官からもパワーポイントはクリティカル・シンキングや議論、そして思慮深い意思決定を阻害するとの声が挙がっているそうだ。
lrandcom.com/no_ppt
現在、Facebook COO、シェリル・サンドバーグ氏やLinkedInのリード・ホフマン氏など、IT界を代表する人達がパワーポイントの使用を禁止しており、Amazonのベソス氏もパワーポイント禁止令を出している経営者の一人です。
「パワーポイントはプレゼンする側を楽にさせ、聞く側を混乱させる。」
(ジェフ•ベソス)
もうナンセンスなパワポは勘弁してくれ
(Pic by thenation)
TEDトークなどを見れば分かりますが、本当にプレゼンが上手い人はスライドなどに頼らず、自らのパフォーマンスで顧客にストーリーを伝え、会場の空気を作ります。
プレゼンに自信がない人たちはグラフィックやエフェクトに頼り、顧客の目を自分ではなくスライドに集中させようとするため、一番重要な感情の部分が伝わらないのではないでしょうか。
gigazine.net/news/20140413-switch-to-whiteboard/
スイス・ジュネーブ郊外に設置されている大型ハドロン衝突型加速器のプロジェクトに携わるフェルミ国立加速器研究所のLHC物理学センター(LPC)は、最先端技術を扱う中で、フォーラムやプレゼンでPowerPointのスライドの使用を禁止し、黒板やホワイトボードを使って研究結果を発表するという方法を採用しています。
フェルミ国立加速器研究所LHC物理学センター(LPC)では、2週間に1度のミーティングで、スライドを使わずにチョークを使ってプレゼンを行うという試みが行われています。
そんな一見ローテクに見えるアイデアですが、6か月前からはLPC主催のフォーラムでPowerPointのプレゼンを取りやめ、黒板(ホワイトボード)を使った対談形式を採用しています。
フォーラムの共同開催者のフロリダ州立大学物理学部のアンドリュー・アスキュー助教授は、
「スライドを禁止することでフォーラム参加者との交流を促すことができ、さらなる好奇心をかき立て、相互作用を生み出すことができます。
その結果、フォーラムにおける聴衆の重要性を引き出すことができるのです」
と説明します。
アスキュー氏は
「PowerPointによるスライドは、プレゼンターが簡単に資料をドキュメント化できる便利なツールです。しかし、スライドはスピーチを聞いていなかったり、プレゼンに集中していない人のためのものであり、最良のプレゼンはプレゼンターがいなければ生まれないでしょう」
と話しており、このアイデアを体験したフォーラムの参加者、博士課程の学生、物理学者たちは
「PowerPoint(スライド)の禁止」
を激励しているとのことです。