昔の長い退屈な欧州・インド航海で真っ暗闇の世界から南国の太陽が出る様は言葉にならない位の美しさであったらしい。まもなく騒乱のボンベイに着くのである。
植物の光感受性を利用して日本では電照キク栽培が盛んである。田舎の真っ暗な夜が少なくなるのは寂しいことではある。
都会で育つ植物が季節を勘違いする理由
Light Pollution May Cause Early Spring
2016年7月27日(水)16時10分マット・ミラー newsweekjapan.jp
<光害とヒートアイランド現象が生態系を脅かす。都会の環境に深刻な影響を及ぼす「ドミノ倒し」を食い止められるか>(写真は東京・新宿の高層ビル街)
春の訪れが年々早まっていると実感する場面は多い。
東京の桜も、入学式の頃には散ってしまうことも多くなった。都市部は特に春が早い傾向があり、2100年には1カ月近く前倒しになるかもしれない。
犯人は地球温暖化だけではなさそうだ。
最近の研究によると、「光害」が都市部と周辺地域の季節に重要な違いをもたらしている。街中の明るさに似せた照明を植物に長時間当て続けたところ、予想どおり、自然光だけのものに比べて早く開花した。
植物は自分が浴びる日光の量を常に計算しながら、開花の時期が近づいたことを知る。日が長くなれば、芽吹く準備をする。
しかし屋外の照明の影響で、植物は本当に春が来たのかどうかを判断しにくくなっている。
光を多く浴びているうちに、季節が進んだと勘違いし、開花や芽吹きの環境が整ったと思ってしまうのだ。
かなり早い時期に開花や芽吹きをする植物は、冬から目覚めるかどうかを判断する際に、平均気温も考慮する。
例えば、ブナは霜の影響をとりわけ受けやすいため、気温が適度に上昇するまで待つ。しかし、冬の終わりに思いがけず暖かい日があると、勘違いして早く芽を出すときもある。
都市部の植物の敵は照明だけではない。
ヒートアイランド現象のせいで周辺地域より気温が2~5度高くなり、植物が春の準備を急がなくてはとだまされやすいという問題もある。
進まない照明の規制強化 早過ぎる春を手放しで喜ぶわけにはいかない。
植物が本来より早く芽吹いたり開花したりすると、生態系に深刻な影響を及ぼし得る。
自然界は繊細なタイミングの上に成り立っている。
例えば、フユシャク(雑木林に多い蛾)の卵は早春に孵化し、幼虫はナラなどの葉を食べる。このとき孵化が早すぎると、まだ食べるものがない。遅すぎると葉が成長して堅くなり、幼虫には食べられない。
フユシャクの幼虫が減ると、コウモリなど蛾を食べる動物が減る。コウモリが減ると、コウモリが捕食する蚊が増える。蚊の増加は病気を媒介する生物が増えることを意味し、人間が感染する危険が高まる。こうして倒れ始めたドミノは止まらない。
ただし気候変動と違って、光害には明らかな解決策があり、すぐに取り組むことができるはずだ。イタリアのある研究によると、光を上向きや外向きではなく下向きに照らす器具や、光の波長が短い高性能の電球を使うと、植物への影響を軽減できることが分かっている。
ヨーロッパ大陸の85%が光害の影響を受けているとみられるが、対策を取ろうという機運は高まっていないのが現実だ。照明に関する各国の規制も、強制力が弱いか、適用地域が限られている。
スロベニア共和国は07年に画期的な規制を導入し、一定の成果を挙げている。しかし、首都リュブリャナにあるサッカースタジアムについて、FIFAが照明不足を理由に国際規格の認定を取り消すとちらつかせた際は、政府が規制を緩和した。
アメリカで光害について何らかの規制を導入しているのは、わずか18州。その多くは地方自治体の指針にすぎない。
生態系を揺るがす問題を前に、明快で簡単な解決策があるにもかかわらず、人間は努力を惜しんでいる。