スペースXのロケット爆発、悲劇から学ぶ失敗から成功へ、一進一退を繰り返す宇宙開発
2016.09.06 natgeo.nikkeibp.co.jp
米国東部時間の9月1日朝、フロリダ州ケープカナベラルにある空軍基地で、2日後に打ち上げ予定だった宇宙企業スペースX社のロケットとイスラエルの通信衛星が爆発した。
スペースX社のロケットが爆発:9月1日、フロリダ州にある発射台でスペースX社のロケット「ファルコン9」が爆発する瞬間をとらえた映像。(Video by USLaunchReport.com)
爆発が起こったのは午前9時7分ごろ。
NASAのケネディ宇宙センターの東にある軍事施設、ケープカナベラル空軍基地第40複合発射施設でのことだった。
目撃者らは、数キロ離れた場所からでも黒い煙の雲が見え、雷のようなごう音が響いたと話している。
米空軍は、爆発によって「一般市民に危険がおよぶことはない」とコメントを出したほか、基地の救急隊員が現場に向かったと述べた。スペースX社も独自に声明を出し、
「発射台に異常があったため、ロケットとペイロードが失われた。発射台は標準的な手順に従って片付けられ、負傷者は出ていない」
とした。
発射にはリスクが伴う
宇宙飛行産業にリスクは付き物で、今回のような爆発は決して珍しくない。この日だけでも、もう1件ロケット事故が起こっているのだ。同じ朝、中国が衛星「高文10号」の打ち上げに失敗した。現時点で原因は不明だが、長征4号丙ロケットが失われるという大きな損害が出ている。
スペースX社のロケットにしても、爆発は今回が初めてではない。
2015年6月28日、国際宇宙ステーションに物資を届ける無人ロケット「ファルコン9」が打ち上げ後に爆発。
NASAに少なくとも1億1000万ドルの損害が出た。
数週間後、スペースX社のCEOイーロン・マスク氏は、同社のロケットが爆発したのは、過去7年で初めてであると述べた。
アポロ13号のフライトディレクター、ジーン・クランツ氏は「失敗は選択肢にない」という不朽の名言を残したが、ロケットに関しては失敗の可能性が常にあることを、1日の事故はあらためて示した。
英語では「難しいことではない」という場合に「ロケット科学じゃないんだから(it’s not rocket science)」という言い回しが使われるが、実際には、ロケット科学はごく基本的な物理の法則に基づいている。本当に厄介なのは、ロケット工学だ。
マサチューセッツ工科大学安全保障研究プログラムで研究員を務めるジム・ウォルシュ氏は、米国の公共ラジオネットワークであるナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)に対し、「ロケットは極めて複雑な装置です」と語った。
「数百万の部品があり、ミスを犯す可能性は部品の数だけあります。計算上のミスかもしれませんし、構造上のミスかもしれません」
とりわけ、新たに設計されたロケットでは不具合が珍しくない。例えば、米国では20世紀に164回打ち上げに失敗したが、うち101件は宇宙開発計画開始後10年以内に発生している。ソビエト連邦に遅れを取るまいと、技術者たちが奮闘していたころだ。
ここ10年は、効率的で費用対効果の高いロケット設計への需要が高まり、技術革新が進んでいるが、その反面、落胆することもよく起きている。
ロケット工学を専門とし、1985年から1999年までに米国で起こった打ち上げ失敗例の研究を主導したイーシー・チャン氏はこう記している。
「米国では、デルタIII、コネストガ、アテナ、ペガサスなど、新たに開発された商業用打ち上げシステムでは、初期に打ち上げの失敗があった。1950年代後半から1960年代前半にかけて起こったバンガード、ジュノー、ソー、アトラスの失敗を再現することになったのだ」
悲劇から学ぶ
ロケット打ち上げの全体的な成功率は高い水準を保っているが(昨年は世界で行われた打ち上げ87回のうち、82回で軌道投入に成功している)、1度失敗すれば、金額の面でも信頼性の面でも甚大な損失が発生する。
例えば2003年には、日本がH-IIAロケットの打ち上げに失敗した。H-IIAロケットはH-II発射システムより経済的で競争力のあるロケットを目指して開発されたものだが、2本のブースターが分離できず、指令破壊せざるを得なかったため、軌道投入に至らなかった。
このロケットには情報収集衛星が積まれていた。損失額は7800万ドルに上り、世界各国からの信頼も揺らぐ事態となった。
米国で起こった無人打ち上げ機の失敗のうち、最大級の損失額となったのは2011年の4段式ロケット、トーラスXLだ。地球の気象研究を目的とした4億2400万ドルの衛星を積んでいたが、先端のノーズコーンが時間通りに分離できず、太平洋に落下した。
発射台から1度も飛び立てなかったロケットもある。なかでも、1967年のアポロ・サターン宇宙船は最も悲惨な結果となった。発射台での演習中に突然火災が起こり、NASAの宇宙飛行士3人が亡くなったのだ。
NASAにとっては当時まだ着手したばかりの有人宇宙飛行計画で初めて人命を失った悲劇であり、このミッションは後に3人の犠牲者に敬意を表して「アポロ1号」と命名された。
一方で、この悲劇を教訓にして実を結んだこともある。NASAは事故後、アポロ宇宙船の安全装置と手順を大幅に改善し、それ以降のアポロ計画は(アポロ13号のような事態はあったものの)安全面でほぼ完璧という実績を挙げたのだ。
「悲劇から学ぶ」という意志は現在でも受け継がれている。
NASAのチャールズ・ボールデン長官は2015年に起きたスペースX社の事故を受けて、過去の事例同様、この爆発事故によって
「宇宙飛行が途方もない挑戦だということをあらためて教えられました。しかし、我々は一つ一つの成功と挫折から学んでいくのです」
と語った。
文=Michael Greshko, Mark Strauss/訳=高野夏美