1キロ54万円のレアアース、南鳥島沖に大鉱床
2016年10月28日 15時42分 読売
次世代の燃料電池や合金への利用が見込まれるレアアース(希土類)の一種スカンジウムが小笠原諸島・南鳥島沖の海底から採取した泥に豊富に含まれることを、東京大の加藤泰浩教授らの研究グループが確かめた。
28日午後に同大で開かれる報告会で公表する。推計資源量(酸化物量)は約15万トンで、現在の世界の年間需要の約9900倍に相当するという。
スカンジウムは中国やロシアなどの限られた鉱山でしか採掘していない。価格水準は1キロ・グラムあたり約5100ドル(約54万円)と高価で、安定した供給が課題となっており、日本企業が新たな陸の採掘事業に乗り出したり、米国の資源会社が太平洋の深海から回収する計画を打ち出したりしている。
脱・資源貧国、日本の切り札「レアアース泥」に中国の触手 南鳥島南方で探査契約
2016.3.30 07:30 Sankei
「研究者はどうやって生活しているんですか」
2月上旬、さいたま市で開催された中学生対象の講演会。無邪気な中学生の質問と、壇上の男性との掛け合いに会場は笑いに包まれた。
壇上の男性は東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンター教授の加藤泰浩(54)。
加藤はハイテク素材に欠かせないレアアース泥を約5年前、太平洋のタヒチ沖やハワイ沖の海底で世界で初めて発見した。
翌年の平成24年には日本の排他的経済水域(EEZ)である南鳥島(東京都小笠原村)沖でも見つけたことを公表した。
海底の鉱物資源を見つけた日本人は加藤が初めてだった。
南鳥島は、東京の南東約1860キロに浮かぶ最東端の国境。
加藤の発見は一辺2キロの正三角形状の同島のEEZで、日本が
自由に海底開発できることを意味する。
南鳥島沖で発見されたレアアース泥は中国の陸上レアアースの20~30倍の濃度。
現在の日本のレアアースの消費量(約1・4万トン)の200年分以上が眠っているという。
日本が海底レアアース開発のトップランナーとなり、「資源貧国」を脱する足がかりとなる可能性を秘めているのだ。
しかし、中国がその行く手を阻むかもしれない。
「日本より先に中国がレアアース泥を開発する可能性が出てきました」
加藤は講演会でこう危機感をあらわにした。
22年9月7日の沖縄県石垣市の尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりしてきた事件。
日本でレアアースという用語が有名になったのはこの事件がきっかけだった。
日本の司法当局が漁船の船長の勾留延長を決めると、中国は自国の陸上で生産されるレアアースの対日禁輸という外交カードを切った。
中国は当時、世界のレアアース需要の97%を供給していた。価格は急騰し、日本は中国に翻弄された。
このとき東大准教授だった加藤はすでに、東大の研究所にあった試料から太平洋沖の水深4千メートル以上で採取された泥にレアアースが高濃度で含まれることをつかんでいた。
研究室の学生ら9人と、数年かけて集めた2千を超える泥を分析し、2カ月で論文にまとめた。
「太平洋の深海泥にレアアース」。
23年7月、論文は世界的科学誌「ネイチャージオサイエンス」に掲載された。加藤がこの発見の公表を急いだのは、レアアース価格をコントロールしていた中国を押さえ込みたい一心からだった。
不穏な動きがある。
中国は約2年前、南鳥島から南側延長線上にある550キロ四方の公海で、コバルトやプラチナを含む海底鉱物資源「コバルトリッチクラスト」を探査する契約を国際海底機構と締結した。
これにより15年間の排他的権利を確保し、開発に向けた探査が可能になった。
中国に定められた鉱区探査範囲最北の海山と南鳥島との距離は約820キロ。
加藤は中国の思惑をこう推測する。
「中国が獲得したコバルトリッチクラスト鉱区は、日本が獲得したクラスト鉱区よりクラストが分布する海山がはるかに少ない。中国の狙いはずばり、南鳥島南方の公海に分布するレアアース泥の探査だろう」
中仏連携 不穏なシナリオ
東大教授の加藤泰浩はさいたま市の講演会でもう一つ懸念を口にした。
「中国はフランスの企業と組んで資源開発しようとしている。先にわれわれが開発したいと思ってます」
加藤は平成26年11月から石油・天然ガス開発会社などが参加する「東大コンソーシアム」というチームを組んでレアアース泥の開発を目指している。
中国にレアアース泥を揚げる技術はないが、世界でトップクラスといわれる仏の海洋開発会社と組むことはないか-。
加藤の懸念は中仏連携のシナリオだ。
中国主導のアジアインフラ投資銀行に仏が参加するなど、中仏は経済的に良好な間柄。
レアアース泥が見つかったタヒチ沖の一部は仏の排他的経済水域(EEZ)で、自国の資源に関心がない国はない。
加藤は2月、仏大使公邸に招かれ、来日中の国会議員らとレアアースについて意見交換した。加藤は中仏の協力は十分にありうる、との見方を深めた。
「仏と中国の企業は一緒に海底資源開発に乗り出そうとしている」。
国際的な海洋動向に詳しいある研究者もこう指摘する。
この研究者によれば、パプアニューギニアで計画されている海底熱水鉱床の揚鉱(ようこう)などに使われる船は中国が、機械は仏企業が造り、鉱石も中国企業が買い取る予定という。
海底熱水鉱床は、海底の地中から熱水とともに噴出した鉱物が堆積してできた金や銀などを含む海底資源。日本では沖縄海域と伊豆・小笠原海域で発見されているが、沖縄海域では中国の海洋調査船が頻繁に出没しているという。しかし、経済産業省は隣国を刺激しないように公表に慎重だという。
そしてこの研究者は中国の資源獲得に対する貪欲さを象徴するエピソードを明かす。
「中国は私たちがすでに発見したところを、『わが国の調査船が沖縄トラフで発見した』とニュースで流した。学術論文として発表し、既成事実化するのは阻止できたが…」
27年6月、中国の通信社、新華社はこんな見出しの記事を流した。
《中国 インド洋で埋蔵量が豊富なレアアース鉱を初発見》
実はこれも加藤がその2年前に国際学術誌に発表済みのもの。
発見の手柄の既成事実化は、日本の領土である尖閣諸島を自国領と主張し続ける手法と同じだ。
「南鳥島周辺のレアアース泥を開発する、という意志は見せておかないといけない。中国の海洋開発は日本を追い越すのが目標ですから」。こう警鐘を鳴らす研究者もいる。
「東大コンソーシアム」は南鳥島沖から泥を引き揚げる実証試験を2年後には行いたいとしている。30・8億円と見込まれるコストが課題だが、いま日本にとって重要なのは中国に後れを取らないことだ。
=敬称略