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数式と遊ぶ数学者達

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数学者たちがつくる、シンプルな数式から生まれる美しき3Dオブジェクト
 
ありふれたものごとも、新たな方法で眺めてみると、本質に近付くことがある。米国の女性数学者2人が、方程式を3Dグラフィックで表現する研究を進めている。
 
2次元を離れて思考することで、方程式の概念そのものについての理解をさらに深めたいという。
 
TEXT BY KEVIN HARTNETT
WIRED(US)
 
  2017.06.14 WED 18:00
 
 それは奇妙な形をしている。
 
広い平面、巧妙につけられたカーブ、ジグザグの縫い目などから、どのように形成されたのかが見えてくる。
 
米ノースウェスタン大学教授のローラ・デマルコと、シカゴ大学の博士研究員であるキャサリン・リンゼーの2人の数学者は、「f(x)=x²-1」といった高校生が学ぶような方程式に、これまでにない斬新な形を与えようとしている。
 
平面でグラフ化したり根を発見したりする代わりに、美しい3Dグラフィックスへと変換するというのだ。
 
リンゼーによれば、これまで多項式に関するあらゆる概念は2次元の平面で定義されており、この研究によって3次元と捉えることが自然になったという。
 
「ローラと私が構築しているような形状を考え出すまで、3次元に自然に立ち現れることなどありませんでした」。
 
彼女たちは、2次元からの脱却が方程式の本質についての理解を深める有望な方法だと信じている。
 
アルゴリズムで作り出す“のりしろ”
 
方程式から3次元の形状を作り出すまでには、以下のようなステップを経る。
 
まず、方程式を「動的に実行」し、「ジュリア集合」を構築する。
 
つまり、値を入力して得られた結果を、次の値として入力する反復を行い、無限大へ向かう初期値と、与えられた値以下にとどまる初期値との境界を記録する。
 
ジュリア集合は、複素数平面(横軸が実数、縦軸が虚数の座標)上に点描される。
 
そこには「フラクタル」と呼ばれる構造が現れる。特徴を厳密に定義するのは難しいが、「部分」が「全体」の相似形になっており、非常に複雑で渦巻いているものを指す。
 
ジュリア集合とその内部を「充填ジュリア集合」といい、3Dグラフィックスの“表面”の主たる部分になる。
 
次に、立体化するために必要な“接着部分”をつくる。
 
アルゴリズムをつかって方程式の特徴である次数(指数として現れる最も大きな数字)や係数を分析し、ジュリア集合とは別のフラクタル形状を出力する。彼女たちはこれを「平面キャップ」と呼ぶ。
“折りたたみ方”が分からない
 
「充填ジュリア集合」と「平面キャップ」を接着すれば3Dグラフィックスになるのだが、ここで課題が生じる。ただの立方体の展開図ならまだしも、見慣れない複雑な2次元の平面図を見ても、“折りたたみ方”が分からないのだ。完成形を直感的に予測しにくい。
 
線や面の曲がり具合を示す「曲率」を算出することで、ゴールに近づくことはできる。デマルコとリンゼーも、自分たちが作ろうとしている3Dグラフィックスが「最大エントロピー原理」に正確に比例する曲率分布を有することを証明した。
 
すなわち、充填ジュリア集合を描写した平面上の、集合から“無限に遠い”場所に点を置き、そこから集合へと“ランダムに歩く”とする。
 
すると、点がジュリア集合上の特定の場所に当たる確率と、3Dグラフィックスにするために折りたたむ際の曲率が一致するというものだ。
 
しかし、正確な曲率までは分かっても、“折りたたむ場所”を正確に特定する数学的な方法はまだない。すべての多項式がそれぞれ異なる3Dグラフィックスをもっていると証明することはできる。その形状の特質を表わす証拠もある。
 
完成形を見る能力だけがまだ手に入っていない。
 
“折れ線”は発見できるのか
 
20世紀半ばに活躍した旧ソ連の数学者アレクサンドル・アレクサンドロフは、かつて
 
「与えられた二次元図形から3Dオブジェクトを取得するための独特な折りたたみ方法が、理論上は存在することはわかっている。だが、実際にその折りたたみ方を計算するのは難しい」
 
と嘆いた。
 
彼の影響を強く受けているデマルコとリンゼーは、自分たちには有望な戦略があると考えている。2000年代初め、ハーバード大学大学院で力学系(理論)から数論まで幅広い技術を応用した先進的な研究を行っていたデマルコは、
 
「力学的な特性を考えれば、折りたたみ線を完全に記述できる、というのが我々の仮説です」
 
と話す。
 
基礎となる方程式を繰り返し正しく使っていけば、折りたたみ線に沿った点集合が得られると期待しているのだ。
 
数学界で最高の栄誉とされる「フィールズ賞」を1988年に受賞したハーバード大学のカーティス・マクマレン教授は、彼女たちの挑戦をこう評価する。
 
「現段階ではちょっとした遊び心のある研究にすぎないかもしれません。しかし、何が奏功して最高の研究へと進むのかは誰にも分かりません。それが数学的景観の特徴であるように思います」
 
デマルコは自分たちを研究へと駆り立てるものについてこう述べる。
 
「うっとりするような美しいものが、研究を進めるなかで、ごく自然に立ち上がってきます。それらは理解されてしかるべきだと思うのです」。
 
デマルコとリンゼーはニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の数理科学研究所が刊行する新しい出版物『アーノルド数学ジャーナル』で、構成や曲率の測定方法などを紹介する予定だ。

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