水力発電、「純国産」で再び脚光 電力各社、相次ぎ設備増強
2017.10.27 06:15 SankeiBiz
電力各社が水力発電所の増強を進めている。
発電容量は比較的小さいが、太陽光などを含む再生可能エネルギーの中で水力は供給が安定し、運転費用も安価に抑えられるためだ。
大規模ダム開発が難しくなる中、既存設備の活用や更新で導入拡大を目指す。
東京電力福島第1原子力発電所の事故後は原発稼働停止に伴い、安定的で安価な電力として石炭火力発電所の新設計画が相次いだが、環境省などが液化天然ガス(LNG)火力の2倍にも上る二酸化炭素(CO2)排出を問題視。
計画の見直しや中止の動きが出る中、「大正・昭和の遺物」とみられていた水力が再び脚光を浴びている。
採算性高く収益向上
関西電力は9月、富山県黒部市の弥太蔵谷川に水力発電所を建設することを決めた。富山地方鉄道(富山市)が1985(昭和60)年に廃止した発電所の導水路などを活用し新設する。2021年4月に着工、22年12月の運転開始を目指す。
年間発電量は一般家庭約3200世帯分の年1010万キロワット時。
弥太蔵谷川は、関電が1961(昭和36)年に一部運転を始めた「くろよん」こと黒部川第4発電所(富山県黒部市)を皮切りに開発してきた黒部水系に位置する。
関電は同水系の黒部川第2発電所(同)も2021年までに出力を現在比4%増の約7万5000キロワットに増強する。
関電は30年に再エネを現在の33万キロワット(計画含む)から50万キロワットに引き上げる方針。
15年6月に「水力事業本部」を新設し、増強を本格化した。再生可能エネルギー事業戦略室の谷川智樹副部長は
「水力は燃料費がかからず、採算性が高い純国産エネルギー」
と強調する。
東北電力は9月、11年から改修していた鹿瀬発電所(新潟県阿賀町)の運転を再開した。
発電機を6台から2台に減らしたが、高効率の水車を採用。最大出力は5万4200キロワットと従来比約5000キロワット増えた。
「新規開発に適した地域が少なくなる中、更新で最大限活用したい」(広報担当者)
北陸電力グループは新潟県糸魚川市に年約8500万キロワット時を発電する水力発電所を22年に新設する計画。CO2排出量を年約5万トン削減できると試算する。
政府は30年度の電源構成のうち、水力の比率について「8.8~9.2%程度」とほぼ横ばいを想定した。
設備老朽化が進む中、中長期指針のエネルギー基本計画は
「(水力は)既存ダムの発電設備設置や、既に発電利用されている設備のリプレース(更新)などによる出力増強などを促進する」
と明記している。
東日本大震災を受け、国土交通省は13年、河川環境や河川使用者への影響が生じない場合に限り、水力発電所の新設・増強に必要な取水量を増やすための手続きの簡素化を打ち出した。
これにより、電力各社は出力増強がしやすくなった。
中小規模の市場拡大
水力発電は燃料費がかからず、稼働率が上がるほど収益底上げにつながる。
ただ、適地は少なくなっており、大規模ダムの新設は難しい状況だ。
このため、既存河川の水流や高低差を活用した出力3万キロワット未満の中小水力発電所の建設市場が広がりつつある。
矢野経済研究所は7月、固定価格買い取り制度(FIT)の30年度の中小水力発電買い取り金額は16年度比4倍超の2300億円に拡大するとの市場予測を発表。
太陽光などの売電価格が下落する中、中小水力は高水準の価格が維持されており、今後も市場の伸びが見込めるという。
FITでは新設した中小水力発電所の電気を1キロワット時当たり、規模に応じて24~34円で買い取っている。今年度から19年度にかけても20~34円での買い取りが決まっている。
原発や火力発電の陰に隠れていた水力発電は平成の今、「純国産エネルギー」として再び注目され始めた。
(会田聡)