なぜイチゴ栽培? 奈良の建設会社が取り組む「新しい産業の形」
2018.10.4 06:30 SankeiBiz
記録的な猛暑や豪雨に見舞われた今夏、全国的に農作物が被害を受け、価格高騰が消費者の財布を直撃した。
そんな中、気候に左右されずに年中甘くておいしいイチゴを収穫できる「閉鎖型植物工場」が奈良市内に完成し、今月からイチゴの一般販売(直売のみ)が始まった。
取り組むのは同市の建設会社「中村建設」。なぜ建設会社がイチゴなのか。そこには農業でも工業でもない、新しい産業の形があった。(田中佐和)
化学農薬は不使用
同社の「いちご工場」は昨年6月、奈良市内の倉庫の一角を改造して造られた。工場内に入ると、大きなガラス窓の向こうに、イチゴをたわわに実らせた栽培棚が整然と並んでいた。
太陽光の代わりに照射される発光ダイオード(LED)の白い光に、葉の緑と赤い実が美しく映える。
収穫されたイチゴをかじると、濃厚な甘みと香りが広がった。
商品名は「とろける香りいちご」(品種は新潟県の『越後姫』)。大きな実は1粒700円以上する高級イチゴだ。
同社は、植物工場では、商品の品質と一定の収穫量が365日保証されるとしている。
コンピューターによる温度や湿度、光合成に必要な二酸化炭素濃度の管理がその理由だ。
決まった時間に適切な分量の水や液肥が自動的に栽培棚に流れる仕組みで、気候や技術に関係なく栽培できる。
密閉された空間で害虫の発生が抑えられるため、化学農薬を使わない安全安心さも売りにしている。
西日本で工場展開へ
実は同システムは、新潟県の建設会社「小野組」が立ち上げた「いちごカンパニー」(同県、平成25年設立)が開発したもの。
同社では小学校の廃校舎を植物工場に再利用してイチゴを栽培しているほか、東日本を中心に、工場運営ノウハウを提供する新ビジネスに取り組んでいる。
中村建設の中村光良社長(55)はかねて小野組と親交があり、同事業の西日本での展開を目指して、昨年システムを導入した。
中村社長は狙いを
「イチゴを作るのが目的ではなく、建設会社なので植物工場を売るのが目標。
年中イチゴを必要とする地域のケーキ店やカフェなどに、システムとノウハウ、工場建設をパッケージにして販売したい」
と語る。
狭い空間を有効利用
栽培棚は規模や用途に応じて組み替えが可能。そのため、店舗の一角や空きコンビニといった、比較的狭い空間を立体的に有効利用することができ、建設費用は一般的な植物工場の半分程度という。
システム管理からメンテナンス、苗の状態の確認まで同社が行うため、農業経験のない初心者も始めやすいとしている。
今後はレタスなど葉物野菜の栽培にも挑戦し、需要を広げる計画だ。
将来的には農耕に適した土地が乏しい海外での展開も視野に入れており、夢は膨らむ。