予想外の芸術家が意外なところに隠れているものですね。
住民が思わずあいさつ、リアルすぎる「かかし」…もはや芸術の域に
産経 8月27日(水)12時30分配信 headlines.yahoo.co.jp
草取りや樹木の剪定をしたり、手押し車を押したり…。畑で作業をしている農家の人たち…と見えたものは実は「かかし」。
そんな人間そっくりのリアルなかかしが、滋賀県東近江市の田園地帯に現れ、注目を集めている。
畑作業をする同市の小西節雄さん(67)が趣味で作ったものだが、多数のかかしが“展示”された自宅近くの畑は見物客がひっきりなしに訪れ、かかしは「芸術作品」として美術展にも出品された。
「喜んでくれる人たちがいるなら、もっと喜ばせたい」
小西さんは製作意欲を燃やしている。(小川勝也)
小西さん製作のリアルなかかしたち
■サンタや聖火ランナーも
「おはようございます」
「…」
「ご苦労さまです」
「…」
県道沿いの畑に向かって、近所のおばちゃんが言葉をかける。だが、相手は無言のまま。人間そっくりのかかしを、農作業をする人と間違えたのだ。
こんなことがあったのは約4年前。
勤めていた会社を退職した小西さんが、自宅近くの畑のスイカをカラスから守るため、一体のかかしを作って置いたところ、本物の人と間違える人が出てきた。それほど、出来栄えはリアルだった。
「これは面白い」
と思った小西さんは、少しずつかかしを増やしていった。
リヤカーを押す2人組のかかしや、畑を監視するかかし、手押し車を押すおばあさんのかかしなどを次々に製作。クリスマスの時期が近づくと、トナカイのそりならぬ一輪車でプレゼントを運ぶサンタクロースを置いた。
端午の節句の頃には、コイノボリを釣ろうとするかかしを作り、昨秋の東京五輪開催地決定時には重量挙げの選手や聖火ランナーのかかしで祝福。年中行事やビッグイベントに合わせ、さまざまなかかしを作った。
また自分の趣味を生かし、ゴルフやソフトボールのバッテリーを題材にしたものも製作。その数は今では約20体に上る。
■旺盛なサービス精神
畑にリアルなかかしが並ぶ光景は次第に評判を呼び、見物客やカメラマンがあちこちから訪れるようになった。
休日には数十人が詰めかける人気ぶりで、
「カラスは撃退できたけど、人間が群がるようになった」
と笑う小西さん。たまたま通りかかった車が、いったん通り過ぎたあと見るために引き返してくることも珍しくない。
サービス精神旺盛な小西さんは、キーホルダーや一輪挿しを手作りして訪れた人たちにプレゼント。リピーターのためにと、季節ごとにかかしの“展示替え”などもしている。
「かかしを見て、怒る人はいない。『バカなことやっているな』と思って、たくさんの人が笑ってくれたらうれしい」
ときには、かかしに紛れて小西さん自身が畑に入って静止し、見物客を驚かせることもあるそうだ。
■飽くなき「リアル」の追求
このかかしはどうやって作るのか。小西さんによると、骨格は木材で組み、動きをよりリアルに表現するため関節部分をボルトでつなぎ、手足や腰などを思いのままの角度に調節できるように工夫。
骨組みの周囲にはクッション材を巻き、人間らしい体のラインを出している。さらにシャツなどの下着を着せて、より人間らしさを追求するなど、製作の姿勢には妥協がない。
下着や衣服、小道具は当初、自分の古着などを使っていた。しかし、作品が増えてくると自前のものだけでは足りなくなり、今ではネットオークションやフリーマーケットで購入している。
「見に来てくれた人たちから『うわー』と驚きの声が聞こえてくることがある。それがうれしくて、『いい加減なものは作れない』という思いになる」
■かかしが芸術に
趣味で作り始めたかかしだが、もはや「芸術」の域だ。
小西さんの徹底した仕事ぶりは、美術館の目にも止まった。社会福祉法人が運営する近江八幡市のボーダレスアートミュージアム「NO-MA」への出展が決まり、現在開催中の特別企画展でかかし数体が展示されている。
学芸員がたまたま畑の横を通りかかり、かかしに目を奪われたのがきっかけになったという。
「これだけ注目されると、畑もきれいに手入れしないといけないし、飽きられないようもっと面白いかかしを考えないと…」
小西さんは創作意欲満々で、リアルかかしはまだまだ増えそうだ。