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モンサントはモンサント

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もっとも難しいのは、「風味」だった
 
 wired.jp

2005年、モンサントは世界最大の野菜種子企業セミニスを買収した。
 
同社は、遺伝資源の卸売業者のようなものだ。セミニスの買収は、思いがけない利点をもたらしてくれることがわかった。
 
その10年前、冒険好きの勇敢な植物学者たちは、シチリア島西部の石灰岩の絶壁で、ブラッシカ・ビロサという現代のブロッコリーの原種を発見した。
 
MYB28という遺伝子のおかげで、この野菜の先祖は通常より多量のグルコラファニンをつくりだした。
 
スタークのチームは、この抗酸化機能を促進する物質を含んだ植物を、より消費者になじみのある野菜に変化させた。
 
従来のブロッコリーのような見かけのものに。
 
スタークたちは、最後の難問に直面していた。風味だ。
 
野菜生産において、風味というのは、色、食感、味(一般的には甘みと、ほのかな苦みのことを指す)、そして香りの組み合わせによって生まれる。だが、こうした特性をつくりだす性質は複雑であり、ときに特定が難しい。
 
イメージ 1例を挙げよう。モンサントはタマネギをつくった。EverMild(エヴァーマイルド)という名のそのタマネギは、切るときに涙を誘発する物質の量が抑えられている。
 
イメージ 2その調整は、さほど困難なものではなかった。
 
だが、冬に採れる甘いカンタロープメロン(米国で一般的なメロンでマスクメロンの一種)をつくる際には、より労力を要した。
 
スタークのチームはまず、収穫したフレンチメロンの腐敗を抑制する遺伝子を発見した。そして、交雑によって、その遺伝子をカンタロープメロンに保持する方法を確立した。
 
イメージ 3現在では、農家はメロンを熟した状態で収穫しても、豊かな風味を長い時間保つことができる。
 
さらに研究者たちは、その果実が、フルーティな花の香りの性質をもつ分子、シトロンに関連する遺伝子をもつように操作したのだ。
 
イメージ 4こうして最終的にできあがった製品はMelorange(メロランジュ)と名付けられた。
 
風味を生み出す仕組みの解明は、知覚科学と遺伝子に関する研究を進める研究所で行われた。
 
それは、カリフォルニア州の農業ベルト地帯に位置する、太陽が常に大地を照りつける農業町ウッドランドの何百エーカーもの試験農場内にある。
 
そこでは、白衣を着た科学者たちが、果物と野菜がつめられた容器がずらりと並ぶ実験室の中で、科学捜査チームさながらの迫力で、徹底的な調査を行う。
 
硬度計で密度を測定する。ブリックスと呼ばれる装置は、糖分の含有量を測定する。
 
ガス分析図、液体の成分分析、MRIを使って、特定の風味をもつ分子とその濃縮物質を分離する。
 
最終的には、ヴォランティアがその実験サンプルを味見し、判定を下す。
 
ある試食セッションでは、官能検査員のチョーミン・リーが、ひと口サイズのカンタロープメロンを入れた5つの容器を、10人強の栽培者と販売業者に配った。メロンのなかには、外部の農場で収穫されたものや店から調達したものも含める。
 
カップにはそれぞれ3桁の数字が書かれたラベルが貼られ、点数表は「甘み/風味」「ジューシーさ」の2列に分けられている。
 
各サンプルを試食して、評価を書き込んだあと、参加者はその点数をリーのノートパソコンにつながった端末に入力する。入力された点数は、横軸が風味、縦軸がジューシーさの高低を表し、両軸が中央で交差するグラフに表示されていく。
 
どのメロンの点数も、そのグラフの右上部分に入らない。
 
モンサントが埋めたい部分、甘く、ジューシーで大衆が喜ぶメロンであることを示す箇所だ。
 
数時間後、隣接している農場で、モンサントのブリーダー、ジェフ・ミルズとグレッグ・トラはまた別の味試験を実施していた。ふたりは、一般的なカンタロープメロンと自社の品種メロランジュを比較するために、スライスする。
 
従来の品種に対するトラの評価は手厳しい。
 
「むしろニンジンのような味がするね」
 
彼は言う。ミルズがうなずく。
 
「堅くて甘い。でも、それだけ。平凡な味だ」
 
わたしも両方を一口ずつ食べてみた。
 
カンタロープメロンに比べて、メロランジュは味がつまっている。
 
いきいきとしていてフルーティ、そしてめちゃくちゃ甘い。もっと食べたくなった。
 
「それがお決まりの反応だよ」
 
ミルズは言う。
 

モンサントはモンサント

もちろん、甘ければいい果物だというわけではない。
 
また、遺伝子組み換え作物でなければ企業の社会的責任を果たしているとみなす風潮を同社が生み出していることに、モンサントの批判者が納得していないのも驚くことではない。批判者が問うのは、こうした新種の果物や野菜が、まったく操作を加えられていないものに比べて健康面で安全なのかという点だ。
 
例えば、2013年に、研究者グループは、モンサントが開発した新種のスイカ「サマー・スライス」のプロトタイプをつくった。
 
イメージ 5リンゴのような食感を実現したスイカだ(子どものころに誰しもが経験した、スイカの汁があごからしたたり落ちていく、あのおそろしい状態が回避できるように)。
 
だが、より果実のつまった食感を実現すると、甘みが落ちてしまう。つまり、スタークのチームは、より糖分が高くなるように交雑する必要があったということだ。
 
それが健康に悪いのか?
 
それは誰にもわからない。
 
だが、はっきり言えるのは、法律上は、モンサントは健康に対する潜在的な長期的影響の説明責任がないということだ(米国食品医薬品局は、添加物を使用しておらず、従来の方法で交雑されている作物はすべて安全であるとみなしている)。
 
かつて誰も、モンサントが試みているような方法で糖分の量を操作したことはない。その試みは基本的に実験だ、とInstitute for Responsible Nutritionの学長を務める小児内分泌学者のロバート・ラスティックは言う。
 
イメージ 6「彼らが重視している唯一の結果は、利益だ」
 
モンサントは、もちろんそうした批判に反論する。果物がよりおいしくなれば、消費者はより多くの果物を食べるようになる。
 
「それは社会にとっていいことであり、モンサントのビジネスにとってもいいことだ」
 
とスタークは言う。
 
結局モンサントは、モンサントだ。
同社の作物種子を購入した農家には、厳しい条件が課された契約を強制する。ラウンドアップ耐性のある大豆と同様に、モンサントは自家採取した種を次のシーズンの作付けに利用することを禁じている。また同社は、収穫物が堅さや甘さ、香りの基準を満たさない際の免責事項も保持したままだ。
「目的は、製品が消費者に評価され、信頼を得て、購入してもらうことだ」と、スタークは言う。「それが一番の望みだ。売り上げを伸ばしたい」
だが、彼は同社の長期的な計画の話になると、口数が控えめになる。「われわれがどのようなマーケットでシェアを得られるようになるのか、かつて本当に予期できていたかどうかも微妙なところだ」と彼は言う。野菜部門は、2013年には8億2,100万ドルの利益を上げた。年間140億の売り上げを出している企業にとっては、大きな潜在成長力をもつ事業であり、バイオテクノロジーを駆使したトウモロコシと大豆にその利益の多くを頼っている状況だ。
さらに、その買収歴を見るだけでも、引き続き作物の生産に力を入れようとしている姿勢がうかがえる。同社はグアテマラの山々に温室を所有する。その乾燥した暖かい気候のもとでは、作物の生産を年に3、4回繰り返すことができ、研究には最適な環境だ。
2008年、モンサントはデ・ライテル・シーズという、世界でも有数の温室用種子企業を買収した。さらに2013年には、天気に関するビッグデータと、地球温暖化に耐えるのに必要とされる地域ごとの土地の性質に関する情報を有するクライメイト・コープを買った。BGC Financialのアナリスト、マーク・ガリーは、モンサントは「悪循環」にはまる戦略をとっていると話す。マーケティングに大金をつぎ込み、利益の多くを研究開発に投入するやり方だ。

 世界の食卓へ
モンサントが開発する新種の作物は、続々と世に出ている。
2012年には、パフォーマンスシリーズというブロッコリーを発表した。従来の方法で交雑された製品で、一般的な種類よりも背が高く、価格は安く、手で採取するよりもずっと速く機械での収穫ができる品種だ。同社のブリーダーは、アメリカの消費者にとってなじみのある緑と白の縞が入ったスイカもつくっている。同時に、スペインで好まれる黒と緑の縞模様のスイカ、オーストラリア人が大好きな楕円の明るい緑色のスイカもつくりだす。
「自分が育った場所を思い起こさせるものであるべきなんだ」。メロンの交雑を担当するミルズは言う。こうした多様性を見据えた開発姿勢は、同部門がグローバル市場で1兆ドル企業になろうとしていることを示している。
スタークはモンサントが優良な食品販売企業と提携することで、同社に対する認知度が増し、消費者の信頼をいくらか取り戻せるのではないかと期待している。「評判を高めるための特効薬は存在しないが、よい影響は得られるはずだ」
モンサント本社地下のダイニングルームで、スタークは皿が空になってからだいぶ経ったあと、その新レタスについて、興奮気味に語り始めた。つい最近、新レタスフレスカーダの人気が高まりつつあるオランダを訪れたスタークは、生産者がレタスの葉をもぎとり、そのまままるで特大のポテトチップスかのようにむしゃむしゃかじっている光景を目にした。「まるでスナックのように食べていたんだ。それは期待していたことじゃない。だが…」
スタークの声は徐々に消え入り、彼はただ部屋を見渡し始める。ナプキンは膝に置かれたままだ。彼はまだ、この野菜がもたらす可能性をゆっくり味わっている。

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