ジャーナルの電子化は10年前から始まっており、図書委員会でも価格の高騰も相当な悩みであった。
当時は公費で10冊以上の紙媒体の学術雑誌を個人的に入手していたのであるが、最近はすべて止めた。電子ジャーナルとして読めるのである。しかし、図書館などは雑誌の高騰に悩みが尽きない。不要な商業誌を止めるしか手はない。
今は懐かしい別刷りなどというものもpdf化である。
学術誌: 価格高騰、物理学者が緊急声明
毎日 2014年11月28日 10時45分(最終更新 11月28日 14時33分)
学術誌の価格が電子版の普及に伴い高騰し、研究者が入手しにくくなっているとして、1000人以上の物理学者でつくる「物性チーム」(代表=石田武和・大阪府立大教授)が27日、政府などに改善を求める緊急声明を発表した。
学術誌の価格は、この20年間は年平均で約7%ずつ上昇し、国立大1校当たりの平均購入費は1億円を超えている。
大学の予算削減もあって、電子版の入手が困難になっている。
声明は、日本の研究者は世界から孤立し、成果を社会に還元する責務に応えられない状況になっていると指摘。
政府などに、安定的に購入するために従来の文教予算の枠組みを超えた新たな財源確保や、次の科学技術基本計画に、すべての研究者が電子版に平等にアクセスできる環境整備の実現を盛り込むことなどを求めている。
石田代表は
「すべての学術分野にかかわる問題であり、他分野の研究者とも連携し、改善を働きかけたい」
と話す。
学術雑誌の電子版高騰 大学購入費8年で3倍
2014年6月2日 東京新聞
学術雑誌の電子版「電子ジャーナル」の価格が高騰している。
論文の利用が多い国立大1校当たりの平均購入費は1億円を超え、大学全体でも過去8年間で3倍に急増。
本体価格値上げに加え円安が拍車を掛けており、2013年度の購入額はさらに大幅な上昇が予想されている。
経営を圧迫される大学関係者は
「読めなくなる海外の論文が増えるかもしれない」
と懸念している。
近年は学術雑誌にも電子化の波が押し寄せ、多くの大学で紙媒体に代わってパソコンなどで読むことができる電子ジャーナルが導入されている。
学内のネットワークに接続すればどこからでも使えるため、学生にとっても利便性は高い。
だが、電子ジャーナルは年平均で約8%ずつ価格が上昇しており、一冊当たり二百万円という高価なものもある。
関係者は
「『ネイチャー』や『サイエンス』には年間で数百万円程度払う大学もある」
と話す。
出版社側は価格高騰の理由として、論文の投稿数が増えて審査や編集に費用がかかることや、電子化による新たな機能の追加などを挙げる。
全国の大学図書館の連合組織「JUSTICE」の今村昭一運営委員会委員長は「代替品がない特殊な商品なので市場原理が働かない。円高の時代は価格上昇分を吸収できたが、円安で負担が増えた」と背景に複合的な要因があると分析する。
文部科学省の調査によると、国立大一校当たりの電子ジャーナルの購入費は〇九年度以降一億円を超えており、国公私立大全体の一校当たりでも〇四年度の約八百六十五万円から一二年度は約二千九百万円へと三倍以上に増えた。
多くの大学は、オプション料金を払って読めなかった学術雑誌も閲覧できるようになる「パッケージ契約」を出版社と結んでいるが、大学の図書購入予算が減り続けており、契約内容を見直す動きも出ている。
また、財務省は電子ジャーナルに消費税を課税することを検討しており、実施されればさらに経費はかさむ。
JUSTICEは、出版社と新たな契約形態をつくるために話し合いを始めているが、「交渉は進まず、具体的な解決策がないのが現状」と頭を抱えている。
学術雑誌の高騰とインターネット
chemeng.titech.ac.jp/~itolab/projects/zb991129
学術情報の収集も大学の重要な使命であり、大学では毎年多額の費用(2億円!)で多数の学術雑誌を購入している。
費用の出所は中央図書館の予算(1,500万円)から、学科単位、研究室単位の共同購入によるものまでいろいろである。(しかし全て図書館の蔵書となる。)特定専門分野の雑誌ほど共同購入人数は少なく、したがって研究室での負担も多くなる。
商業誌と違って学術雑誌の価格が高いのは当然であるが、以前は年間1雑誌あたり5万円~20万円であった。この程度なら教官個人の年間校費内(80万円)でも資料代として納得して支出可能であった。
ところが図にみるよう最近の学術雑誌の高騰はものすごい。海外雑誌は軒並み2~3倍の値上がりである。
Journal of Membrane Science(エルゼビア社)などは数年後に100万円に達しそうである。これではまるで文化系の研究室のように、経常研究費の大半が資料代になりかねない。
このような雑誌の異常な高騰により、大学図書館では学術雑誌購入数の絞り込みに大わらわである。
(外国雑誌のRenewalと価格問題(長谷川豊祐氏 (鶴見大学図書館)))(そのときにも使われるのが、雑誌のインパクトファクター。)筆者も頭をかかえており、現在 共同購入の人数を増やす作戦中である。
この高騰の原因はなにか。どこまでゆくのか?輸入代理店が不当に利益を得ているのではとかんぐるところであるが、そうでもないらしい。値上げは出版元自身でおこなわれているようである。
その背景を窺わせるのが海外出版社の電子化・電子ジャーナルへの取り組みである。現在エルゼビア社はScienceDirect( SD-21)システムを大いに宣伝している。
これはインターネットからアクセスできる、原著論文のデータベースである。
実際アクセスしていただくとわかるが、これはたいへんなものである。
自社の1000タイトルの雑誌は全文、他にも2000タイトルにつきアブストラクトが検索・閲覧できる。
我がJ. Chem. Eng. Japanも原報の要旨が収録されている。(勝手に収録・掲載してよいものか。著作権問題が発生するのでは?)本文はテキストで、図、式は画像で作成され、添え字指定さらには引用文献にリンクまでつけてある念のいれようである。
また多くはpdfファイルもあるので、「別刷りReprint」そのものもダウンロードできてしまう。
(ご自分のホームページをお持ちなら、私のページのようにこのデータベース中の自論文へのリンクをつければ直ぐ研究内容紹介となる。お薦めします。)
原著がデータベースになっているのだから、もうChemical Abstractなど過去のものである。
この膨大なデータベース作成にどんなにマンパワーを必要とするか、筆者もOCRしてデータベース作成作業をしている(Journal of Chemical Engineering of Japan)のでよくわかる。
百人単位の専従者が必要であろう。
また検索・表示のレスポンスも良く、ハード的にも充実しているようである。
エルゼビア社はまだこのデータベース(電子出版)で収益をあげているわけではないので、これに必要な投資は当然現在の印刷雑誌の購読料でまかなっているはずである。
よって、我々が必死で支払っている雑誌代はこのような電子化のための投資となっていると想像できる。
エルゼビア社だけでなく海外の学術雑誌出版社は軒並み電子化へ向けて膨大な投資を始めているようで、どうやら雑誌高騰の背景はこれがあるようである。
じゃあ雑誌購入を中止してインターネットで見ることで済ませば良いかというとそうはいかない。
SD-21は実際にエルゼビア社の雑誌を多数購入している大学しか利用できない。
Journal of Membrane Scienceをやめてしまうと、大学としてSD-21が利用できなくなるかもしれない。大学全体のことを考えると勝手に購読中止もできない状態である。雑誌代にデータベース使用料が含まれているようなものであり、出版社側の戦略にすでにはまっているようである。
もちろん自分の研究費のことだけを考えれば、直ちに雑誌の購読を中止して、数年ガマンし、電子化が一段落してから電子媒体で購読を再開する、というのが賢い行動ということになるのだが…
(2000/11/20 追記) とうとう事態は悪化の方向に・・・。附属図書館からの連絡によると、2001年は大学全体で外国雑誌購入の中止が多数あり、そのなかでエルゼビア社の雑誌が27誌700万円余りが中止になる予定。
(これは各部局、教官の個々の判断による。本年度からの校費の減少の影響が直接あらわれたもの。)その結果、2001年は新潟大学としてSD-21参加金額(4,729万円)に600万円不足するため、SD-21は利用できなくなるとのこと。(購読している雑誌については当該発行年分のみ利用可能。大学として 5000ダウンロード/年 は可能。)これで当方もJ. Membrane Sci.をがんばって購入継続している理由が無くなる・・・・
(注:大学の外からみると奇妙なことであるが、「新潟大学が購入している雑誌」(年間 2,300誌、購入額 2億円)とは大半が学科や教官が通常の研究費から支出して購入しているものである。図書館の蔵書として共有はされているが、購入は各教官の自由意志である。雑誌を購入している教官は(もちろん自分が使うのであるが)半分はボランティアで共通経費を支出しているようなものである。各教官の台所が苦しくなると、各教官の都合で雑誌の経費が先ず落とされる。以下のように、外部から大学全体としての購入額が問題になっても、図書館側としては対処のしようがない。これは「構造的問題」の一種である。)
(2001/9/20 追記) ということで3人の先生で共同購入していたJ. Membrane Sci.は来年度購入しないこととした。
(2001/12/17 追記) (図書館委員会での情報)いよいよワイリー、Elsevier(SD-21)、Springer-LINK、Blackwell、IDEAL Academic Pressの「電子ジャーナル」が2002年から正式開始されるとのこと。「国立大学コンソーシアム」という組織と出版社側の交渉により、各大学の2001年の購読額の維持 が各電子ジャーナルアクセスの共通の条件となったそうである。
出版社側は電子ジャーナルそのもので料金をとるのは無理と考え、冊子体とのセットで売り上げを維持する作戦にでたもよう。(今後も冊子体の値上げは出版社の勝手でできるからね。)
新潟大学におけるElsevier社の雑誌の場合、2001年度は181誌、4,383万円購入していたが、この金額がSD-21利用の基準となってしまった。これが2002年度の契約は現在、170誌、 3,667万円となっており、716万円不足とのこと。さてどうするか・・・。図書館では対策委員会WGを発足させたが、各教官にElsevier社の雑誌を購入してほしいと依頼することになるのか?ムリだろうな。しかし「研究型大学」をめざすはずの新潟大学としてはSD-21が使えないのは大きな研究上の障害となるであろうことは確か。(すでにゼミ文献の調査などで学生・院生がこの便利な環境に慣れっこになってしまっている。)
しまった!こんなことならJ. Membrane Sci.をもう1年早く中止しておけばよかった。そうしておけば新潟大学としてのSD-21利用最低購入金額が76万円減っていたのに。頑張ったことがかえってアダになってしまった。
(2002/3/5 追記) (図書館委員会での情報)学長に要望していた電子ジャーナル利用に不足分の予算1,181万円が学内共通経費からの支出が認められたとのこと。これで電子ジャーナル利用が再開される。とりあえすメデタイ。
個人的にはこれで雑誌高騰の問題が電子ジャーナルの利用で解決をみたことになる。
しかしこのことは「革命」である。
今後の雑誌の中止分(電子ジャーナル参加金額不足分)は共通経費から支出される道筋がついた。
各教官は電子ジャーナルで我慢すれば雑誌の購入を止められる。
すなわち雑誌購入予算が各教官から全学経費に移管することになる。これは保守的な大学ではめったにおこらない大変化である。
(2004/9/15追記) 新潟大学としての電子ジャーナル費用は、2003年度 14,300万円、2004年度 14,200万円と定着しつつある。
(このうちSD-21が1/3)名目的な「電子ジャーナル誌数」は13,000タイトルであり、全国的には 九大-新潟大-京都大等の順で、新潟大は全国二位となり、ひとつのアピール点となっているようである。
(九大の費用は4億円とのこと。)年間のアクセス数(ダウンロードした論文数)は約30万件であり、全費用で割ると1件の論文ダウンロードが470円ということになる。
情報はタダではないとはいえ、大学としてのこの電子ジャーナルへの多額な支出はバランスに欠けているかもしれない。