最近、千葉上空でRed Spriteが観測されたようです。なかなか興味深い。大電荷( 200クーロン程度)を中和する正極性落雷に伴って発生。
過多なカミナリ放電により大量の蓄積負電荷が正に帯電している電離層との間で放電し窒素分子を励起し発光するという。
phys.org/news/2013-08-bird-plane-ufo-ared-sprite
atoptics.co.uk/highsky/auror3
「高高度の謎の光を追う
~高々度発光現象と雷雲との関係~」
~高々度発光現象と雷雲との関係~」
鈴木智幸さん(航空自衛隊気象業務隊)
yoho.jp/shibu/tokyo/kaigogaiyo_2004
雷雲上空に落雷に伴って出現する謎の発光体。現象自体は 100年以上前から知られていながら、学問的な取り組みが始まったのは高々15年あまりという
「高々度発光現象」
について、気象学的なアプローチで観測・研究を行なっておられる航空自衛隊の鈴木さんにお話し頂きました。
1)高々度発光現象研究の歴史
高々度発光現象は、今から 100年以上前にToynbee and Mackenzie(1886) が、科学誌「Nature」に雷雲上の発光現象として報告したが、その後、航空関係者などからの目撃証言はあったものの、確固たる証拠がないまま、いわば放置されていた。
しかし 約100年後の1989年7月6日、ミネソタ大のフランツなどが、超高層探査ロケットに搭載するための高感度ビデオカメラの感度調整を恒星を使って行なう作業中、偶然、雷雲から高々度へ向かう発光現象を撮影することに成功した。
これを詳しく調べたところ、継続時間は撮影されたビデオ映像のコマ間隔から少なくとも16.7ミリ秒あり、発生位置は、雷活動の観測ネットワークなどから、観測点から 250km遠方の雷活動の上空で、雷雲頂部から上空に向かっていることなどが明らかになった。その後、この現象は「スプライト」と名付けられた。
2)高高度発光現象の概要
高高度発光現象には次のようなものがある(発表者が便宜上分類したもので、一般的にオーソライズされたものではない)。
●ブルージェット
・ブルースタータ
・ギガンテックジェット
・ブルースタータ
・ギガンテックジェット
●レッドスプライト
・スプライト・ハロー
●エルブス
2-1)ブルージェット(ブルースタータ・ギガンテックジェット)
ブルージェットは、対流コア付近上空で活発な落雷に伴って発生し、色は濃い青。形状は上に開いた円錐状をしている。
ブルースタータ ギガンテックジェット
進展速度 不 明 1000~1200km/s
上端部高度 約25km 約100km
持続時間 極めて短時間 400~650ミリ秒
進展速度 不 明 1000~1200km/s
上端部高度 約25km 約100km
持続時間 極めて短時間 400~650ミリ秒
2-2)レッドスプライト
レッドスプライトは、大電荷( 200クーロン程度)を中和する正極性落雷に伴って発生し、色は赤。
形状は
クラゲ、
羽根飾り、
にんじん、
柱状
等、多数あり、複雑な構造を持つ。
高度40~90kmを中心に発光し、水平のひろがりが10~50kmに及ぶ。持続時間は数100ミリ秒である。
2-3)エルブス
非常に大きな電流値を持つ落雷(極性は問わない)によってスプライトに先行して発生する。高度約100km上空、ドーナツ状の円盤が水平方向に広がる形を持ち、雷放電により上空に励起された電磁パルスで発光すると考えられている。なお、この「エルブス」は、東北大の福西教授が世界で初めて発見した現象である。
3)高高度発光現象をもたらす雷雲
夏季雷では、高高度発光現象をもたらす雷雲はメソスケール(MCS)のもので、その1/10~1/4 が発生領域となっている。
スプライトの発生機構としては、対地放電を繰り返すことで雷雲上部に負電荷が蓄積し、この負電荷が、正に帯電している電離層との間で放電する際、窒素分子を励起することで発光するというメカニズムが考えられている。
エルブスは、大電流の対地放電に伴う電磁パルスが上空に伝播することで引き起こされた発光であると考えられている。
4)冬季雷と高高度発光現象
日本では気象条件等の影響で、夏季雷に伴う高高度発光現象は観測されたことがない(夏季はスプライト発生地点までクリアな見通しの確保が困難)。
そこで冬季雷について、いつ、どのようなエコー構造の雷雲がスプライトを発生させるのか、またその際の電荷構造及び電荷量はどのようになっているのかについて観測・解析を行なった。
4-1)解析データ
解析に使用したのは次のデータである。
●LiDASネットワークデータ
*Cバンドレーダー
・水平1km、鉛直0.5kmの分解能で200km四方の領域をカバー
*フィールドミル・ネットワーク
・5~10km間隔で計27個設置された電界計
*Cバンドレーダー
・水平1km、鉛直0.5kmの分解能で200km四方の領域をカバー
*フィールドミル・ネットワーク
・5~10km間隔で計27個設置された電界計
●衛星画像
・水平分解能5km
●フランクリン・ジャパン社の落雷位置データ
4-2)解析対象と気象状況
2000年から電通大が撮影しているスプライトの光学観測データから、LiDAS ネットワーク内で発生した、スプライトと関連のある落雷を抽出した。Cバンドレーダー領域内イベントは約10例、さらにフィールドミル・ネットワーク領域内イベントは1例であった。この1例を対象にした(2001年12月14日22時19分)。
このときの気圧配置は、発達した低気圧がサハリン付近、中国東北部と華南に高気圧がある西高東低の冬型の気圧配置で、輪島の高層観測からは4500m付近に沈降性逆転層が形成されており、それ以下でほぼ湿潤となっている。
4-3)スプライトを伴った雷雲のエコー構造とライフサイクル
解析対象としたスプライトを伴った雷雲は、レーダーで見ると水平規模20km程度の比較的小さいエコーで、次のようなライフサイクルを持っていることが分かった。
1.小松の西海上約70kmで発生
2.陸上に近づくにつれて徐々に面積が広がる
3.雷雲エコーが上陸するとまもなく、スプライトを伴う落雷が発生
4.上陸すると急激に衰弱
5.雷雲セルの大きさは数十km四方程度
6.移動速度は東へ約60~70km/h
2.陸上に近づくにつれて徐々に面積が広がる
3.雷雲エコーが上陸するとまもなく、スプライトを伴う落雷が発生
4.上陸すると急激に衰弱
5.雷雲セルの大きさは数十km四方程度
6.移動速度は東へ約60~70km/h
鉛直構造で追跡しても、発生後10分後に最も高いエコー頂高度を記録した後、4km程度のエコー頂を保持したまま東進。エコー東端が海岸線に達した後、エコーが急速に衰弱に向かう時間帯と対応してスプライトが発生した。
スプライト発生時の落雷位置は、エコーの強い領域の周辺で、近傍の電界計には強い正電荷が記録されていた。
スプライトが発生した雷雲エコー周辺の雲頂は、-25℃より温度が高い部分であった。