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インテルの新型チップ 「ニューロン」+「シナプス」

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インテルの新型チップは「ニューロン」と「シナプス」を利用して限界を超える
 
インテルが開発した新型チップ「Loihi」には、脳のニューロンとシナプスの動きを模した素子が組み込まれている。
 
「ニューロモーフィック・チップ」と呼ばれるこの種のチップは近年注目を浴びており、従来型のチップの限界を超えることが期待されている。
 
その実用化に向けたインテルの試みとは。
 
TEXT BY TOM SIMONITE
EDITED BY CHIHIRO OKA
 
WIRED(US)     2017.11.01 WED 07:00
 
動画を見ていて登場人物の感情を想像するよう求められると、脳内では電気信号が急増して神経細胞がたくさんの情報をやりとりし始める。
 
インテルが新しいテストチップ「Loihi」に同じことをやらせてみたところ、数千本のシリコンの「ニューロン(脳神経細胞)」がスパイクと呼ばれる電気信号を起こして対応しようとした──。
 
イメージ 1Loihiは人間の神経細胞と同様に、互いをつなぎ合わせることで新しいタスクに取り組んだのだ。
 
ハワイの海底火山にちなんで名づけられたインテルのこのテストチップは、人間の脳と同じように機能するわけではない。
 
だが、従来型のプロセッサーとは一線を画すものだ。
 
同社によると、このアプローチでクルマやカメラ、ロボットなどはインターネットに接続しなくても「学習」できる。
 
クラウドでデータがやり取りされるのを待つ必要がなくなるだけでなく、ネット接続を遮断することでプライヴァシーの保護にもなる。
 
Loihiはニューロンとシナプスの動きを模した素子を搭載した「ニューロモーフィック・チップ」と呼ばれる集積回路で、通常のチップの1,000分の1のエネルギーで動画を理解するようなことが可能だ。
 
エネルギー効率のよさと学習能力は、刻々と変化する現実世界に機械が対処できるようになる未来の可能性を示している。インテルの研究開発部門トップのマイケル・メイベリーは、
 
「自然な環境における周囲の状況をよりよく理解することに取り組んでいます」
 
と話す。
 
 インテルがチップに注力する理由
 
Loihiはまだ研究段階だが、メイベリーによると、11月には13万のニューロンをもつ小指の大きさほどのチップの生産を開始する予定だ。
 
2018年には学術機関や研究機関に提供する計画で、すでに2種類のプロトタイプが試作され、現在は製品版のテストが行われている。関心が高ければ、最低2年で市場投入が可能だという。
 
Loihiは昨今の人工知能(AI)ブームを事業拡大に結びつけようというインテルの最新の試みだ。同社は2016年、ディープラーニング分野のスタートアップNervana Systemsと、コンピューターヴィジョン向けのシステム・オン・チップ(SoC)を手がけるMovidiusを買収した。
 
17年3月には自動運転向けのシステムやセンサーを開発するイスラエル企業Mobileyeを傘下に収めている。
 
インテルは新たな成長分野を必要としている。長年にわたり独占的な地位を占めてきたコンピューター市場は失速しつつあり、モバイル機器向けの半導体には参入を断念しているからだ。
 
買収したスタートアップ企業は、人工ニューラルネットワーク(ANN)と呼ばれるモデルを用いたチップの開発を進める。それは囲碁の世界で名を上げたグーグルの「AlphaGo」といったAIを支える技術で、データを扱うのに人間の脳の仕組みを模したシステムを採用している。
 
インテルだけでな、くグーグルやマイクロソフト、アップル[日本版記事]も既存の設計のチップを使って、このモデルを実現しようとしていた。
 
Loihiは実際に脳の構造を再現したデジタル回路をもつ。
 
つまり既存の半導体チップとは根本的に異なるのだ。
 
従来型チップでは、データがプロセッサとメモリーの間を行き来していた。
 
これに対し、Loihiの“ニューロン”素子とそれぞれの素子をつなげる“シナプス”は、プロセッサーとしてもメモリーとしても機能する。
 
このため、データを移動させるエネルギーと時間を節約できる。
 
“シナプス”は脳の実際の学習メカニズムと同じように、活動していくなかでパターンを変えてゆく。
 
このパターンの変化については、チップにダンベルを持ち上げる動画を記憶させ、同じ運動をしている別の動画を見せて認識できるかといったテストなどによって検証されている。
 
ニューロモーフィック・チップの可能性
 
神経科学を応用したチップをつくったのは、インテルが初めてではない。IBMも米国防総省の研究機関である国防高等研究計画局(DARPA)の助成を得て、2種類のニューロモーフィック・チップを設計している。
 
IBMのチップはインテルのものとは違い、インプットデータから学習することはできない。DARPAはニューロモーフィック・チップを使って、例えばドローンで撮影された映像の分析などを行うことを目指しており、IBMは自社のチップを使った研究システムの構築に向け2つの研究機関と契約を結んだ。だが、商用利用が可能になる時期については明らかにしていない。
 
フェイスブックのヤン・ルカンをはじめ、ニューロモーフィック・チップに懐疑的なAI研究者もいる。ニューロンとシナプスを模した集積回路が、従来型チップで動く機械学習ソフトウェアと同じくらいパワフルかつ柔軟であることが証明されたわけではないというのが理由だ。
 
メイベリーは、Loihiはその学習方法により、これまでのシステムより柔軟なものになるだろうと話す。AIの進化が急速に進むなか、時期的な有利さもある。
 
AI関連のソフトウェアに特化してデザインされたチップの急増は、企業が従来型チップの技術改良だけでは満足できなくなっているという現状を示唆している。ジョージア工科大学准教授のトゥーシャー・クリシュナは、「業界各社は特定の用途に特化したデザインが合理的だということに気づき始めている」と指摘する。
 
また、企業が新しいアイデアに積極的になっている別の理由として、インテル創業者のひとりであるゴードン・ムーアが唱えた「半導体の性能は上がり続ける」というムーアの法則が崩れつつあることも挙げられる。
 
人間の脳の働きにヒントを得た半導体チップは依然として実用化には程遠いかもしれないが、夢物語ではない段階に来ているのかもしれない。
 

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