世界最大の“農業マフィア”が隠したい真実──除草剤の欠点を指摘した研究者たちを口封じか
2017.11.07 TUE 07:00 wired.jp/2017/11/07 TEXT BY RITSUKO KAWAI
巨大バイオ企業、モンサント。
同社が売り出す除草剤の「影響」に対して追及の声を上げた研究者が、賞賛どころか、苛烈な非難の声にさらされている。
さらには、当局や除草剤を使用する農家との間での対立構造も深刻化しているという。
ヴェトナム戦争で使用された枯葉剤をつくった農薬メーカーとして知られ、除草剤に耐性をもつ遺伝子組み換え作物(GMO)の開発で、いまや世界屈指の“農業マフィア”に成長したバイオ化学企業モンサント。
同社はこれまで、GMOと除草剤のセット販売に加え、栽培農家によるGMO種子の採種・再利用を禁じる契約で、世界の種子市場における独占的な立場を確立してきた。
こうした背景から
「欲望から生まれた悪魔の種子」
といった批判がつきまとう同社に、新たな農薬の欠点を指摘した研究者たちとの間で深刻な不和が生じていることを、『NPR』をはじめとする米メディアが報じている。
遺伝子操作の“マッチポンプ”
1970年にモンサントが開発した「ラウンドアップ」は、グリホサートglyphosateを主成分とした非選択性除草剤で、農作物や雑草を無差別に枯らす性質をもつ。
この除草剤とセットで販売されているのが、遺伝子操作によってラウンドアップへの耐性を有した大豆や綿花、トウモロコシのGMO種子「ラウンドアップレディー」だ。
permaculture.co.uk/news
しかし、長年にわたるラウンドアップの過剰散布は、世界中でグリホサートに耐性をもつ雑草を生み出す結果を招いた。
Dicamba
そこでモンサントは、数年前から除草剤の主成分に従来のジカンバを採用した新たな戦略へ移行している。
課題はジカンバの揮発性にある。
ジカンバは散布された土壌や作物から蒸発しやすく、植物に有毒な雲を形成しながら予測不能な方向へ拡散することが報告されている。
そこでモンサント、BASF、デュポンの3社は、ジカンバの揮発性を抑えた新たな化学式を考案した。
これがすべての騒動の火種となった。
モンサントが打ち出した低揮発性の化学式は、特許製品であることを理由に、各大学の研究者による科学的な裏付けが一切なされていないのだ。
つまり、揮発性による近隣農家への影響や安全性が、公平な観点から保証されないままに市場へ放たれたことになる。
さらに問題視されているのが、改良型ジカンバの販売承認を得る前に、モンサントがジカンバに耐性のある新たなGMO種子を売り出してしまったことだ。
これによりジカンバ耐性型GMO種子だけを手にした農家が、旧式のジカンバ除草剤を違法に散布してしまう状況は想像に難くない。
実際、アーカンソー州では広範囲に拡散したジカンバにより、新型GMO種子へ移行していない農家が実害を被ったケースがいくつも報告されている。
なかにはジカンバの被害が原因で、銃撃事件に発展した農家もあったという。
広がる被害
騒動はこれだけに留まらない。
2017年の夏、ジカンバの新たな化学式が承認されたことで、ほとんどの農家がジカンバ耐性型GMO種子の大規模な作づけを開始した。
ところが、揮発性を低下させたはずのジカンバ除草剤による農作物への被害は、依然としてなくならなかったのだ。
アーカンソー州、ミズーリ州、テネシー州を中心に、大豆をはじめとした野菜だけでなく、果樹園への損害も報告されている。
この状況にもモンサントは何ら懸念を示していないようだ。
ミズーリ大学で雑草を研究するケヴィン・ブラッドレー教授によると、全米でジカンバの拡散で被害を受けた農地は、推定で3,100万エーカーに上るという。
それにもかかわらず、研究者の追及を受けたモンサントの重役は、栽培農家が適切な使用方法を遵守しなかったことが主な原因であるとの主張を崩そうとしていない。
それどころか、実験によってジカンバの揮発性が農作物へ与える悪影響を立証してみせたブラッドレー教授に圧力をかけるほか、ジカンバの使用禁止を提案したアーカンソー州の監督官を告訴するなど、自社に不利益となるあらゆる人物を攻撃しているという報道もある。
また、モンサントは、他社の非ジカンバ製品を推奨する研究者の訴えに耳を貸さないよう、各州の監督官に対して公式声明を出している。
善意と利権
ジカンバの問題を指摘する研究者の存在を快く思っていないのは、何もモンサントに限ったことではない。
それまで良好な関係を結んできたミズーリ州の農業コミュニティ全体が、核心に迫ろうとするブラッドレー教授を糾弾しはじめたのだという。
それほどに莫大な金銭と利権が絡んでいるということだろう。
「わたしの発言がミズーリの農業にとって悪影響だと言われるのは受け入れがたいです。名誉や金銭的な報酬のためではなく、地元の農家を手助けしたいと願っているだけなのに」
(ブラッドレー教授)
米環境保護庁は先日、来年もジカンバの使用を認可すると発表した。
除草剤の散布を許可された使用者や時期について、いくつか付け加えられた制約はあるものの、これまでに報告されたジカンバの揮発性による農作物の被害がなくなるとは到底考えにくい。
また、ブラッドレー教授のような真実を追求する者たちは、今後こぞって口を閉ざすかもしれない。
世界の農業を制した大帝国は、誰も逆らえない黄金の巨人を生み出してしまったのだろうか。
gigazine.net/news/20171030-monsanto-dicamba-affray
化学メーカー「Monsanto Company(モンサント)」は、近年、強力な除草効果で知られる「ジカンバ(Dicamba)」とジカンバ耐性作物種子の販売を強力に推し進めており、日本でも2013年にジカンバ耐性大豆(MON87708系統)の栽培・輸入が安全性認可を受けています。
しかし、ジカンバを巡っては致命的な「欠陥」によって、周辺農地の作物に大きな被害を与えるとして植物学者たちが使用反対の声を出しています。
Monsanto Attacks Scientists After Studies Show Trouble For Weedkiller Dicamba : The Salt : NPR
モンサントと全米の植物学者との間に緊張関係が生まれたのは、モンサントが「ジカンバ」という古くからある除草剤を全面的に推し進める戦略を採った時点だといわれています。
グリホサート系の強力な除草剤「ラウンドアップ」と、ラウンドアップ耐性を持つ遺伝子組換え品種の種子をセットに販売することで世界的な成功を収めたモンサントでしたが、近年はラウンドアップ耐性を持つ雑草が現れたことや、ラウンドアップ耐性大豆の種子の特許切れなどの問題に直面しており、新たな事業の柱を必要としているという事情があり、そこで登場したのがジカンバ販売促進戦略だというわけです。
ジカンバ自体は古くから知られる除草剤ですが、モンサントはジカンバ耐性を持つ大豆や綿花の種子を遺伝子操作によって開発しました。
強力な除草作用を持ちあらゆる作物を枯らしてしまうジカンバも、遺伝子改変された耐性作物には影響を与えません。
そのため、「ジカンバ+遺伝子改変作物」という組み合わせを用いる農家は雑草を容易に駆除して作物を収穫できることから、そこには大きな需要があり、ジカンバと種子のセット販売というラウンドアップ除草剤と同様の戦略をモンサントは採ろうとしているというわけです。
しかし科学者からはジカンバの特徴である「揮発性」に対して懸念の声が上がっています。
ジカンバは農薬としてスプレー状に散布されますが、揮発性が高いため、夏の高温な時期に散布されると蒸発して風に乗り広範囲に広がってしまい、他の作物に被害をもたらしかねないと考えられています。
このジカンバの持つ大きな「欠陥」を指摘されたモンサントは、容易に蒸発しない「低揮発性ジカンバ」を開発することで問題を解決したと発表していました。
この発表を受けて専門家は真偽を検証をしようとしましたが、モンサントは低揮発性の改良型ジカンバをプロプライエタリ(独占的)製品として取り扱うことで、検証実験ができないようにしたとのこと。
アーカンソー大学のボブ・スコット博士は、
「私たちはもっと多くのテストができたはずでした。何年もの長期的なテストをしたかったのです。しかし、製品を利用できませんでした」
と述べています。