アルツハイマー治療 鉄分にヒント
2018.3.1 06:10 SankeiBiz
積み上がる証拠
アミロイドを標的とした研究への関心が高まる中、カナダの研究については当時、再現試験や追跡研究が行われることはなかった。
だが、ここ数年でアルツハイマー病における鉄の有害性を示す証拠が積み上がってきた。
エートン氏らは2015年、オンライン学術誌ネイチャー・コミュニケーションズに試験の結果を発表。
脳の鉄分量が多い患者は早い段階で急速に症状が悪化する一方、少ない患者は症状の進行が抑制される可能性があるとしている。
これに基づき、鉄と結合する性質を持つ「キレート剤」と呼ばれる薬剤で脳の鉄分量を下げることができれば、軽度認知障害を経験している初期アルツハイマー病患者の発症を、最大3年遅らせることができるとの仮説を立てた。
経口鉄キレート剤のデフェリプロン Deferiprone(C7H9NO2慣用名:3-Hydroxy-1,2-dimethyl-4(1H)-pyridinone、CP-20)は、カナダの製薬会社アポファーマが地中海貧血治療薬として「フェリプロキス」という商品名で販売している。
体内の鉄分配合は細胞内に取り込める金属量を伝える信号により制御されているが、細胞には致死量の金属を引き入れて細胞死に至るプログラムが組み込まれているとみられている。
同プログラムにより神経細胞が死に至れば、神経変性につながる恐れがあると、エートン氏は話す。
新たに開始した研究では「定量的磁化率マッピング」という新しいMRI技術を用い、認知機能の低下と脳の主要部位の鉄分量を比較するという。
英仏の研究グループが行ったパーキンソン病に関する最近の研究では、デフェリプロンが実際に脳の特定部位の鉄分量を低下させることが示された。
とはいえ、医師の管理なしにデフェリプロンに飛びつくべきではない。
アルツハイマー病患者を明確に対象とした研究はまだ行われておらず、副作用もないわけではないからだ。
「鉄は強力な元素であり、必要だ。だが、強力であるがゆえに、非常に危険でもある」
とエートン氏は述べている。
(ブルームバーグ Jason Gale)